テレビドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)で国民的俳優に、名作ミュージカル『CHICAGO』でブロードウェイに進出、Netflix『新聞記者』が世界配信と米倉涼子の仕事はスケールが大きい。その一方で、米倉涼子の何が凄いか、その才能について語られることはあまりない。

たいてい、天才でも努力でもどちらにしても演技力が高いであるとか類稀なる華があるとか名門の血筋とか何かしらの評価軸で語られるものだが、米倉涼子に関してはそういう文脈の記事をあまり見ない。米倉涼子は米倉涼子なのである。いったい米倉涼子とはどういう存在なのか考えてみた。

米倉涼子の生き方は凡人離れと思っていたけれど…

米倉涼子は子供のときバレエを習っていて、全日本国民的美少女コンテストのグランプリを獲得したことをきっかけにモデルデビュー、やがて俳優に軸足を移していく。

バレエで育まれたのびやかな身体を武器にさっそうとした役を多く演じていくなかで松本清張の『黒革の手帖』のヒロインが当たり役となる。毅然(きぜん)とした佇(たたず)まいを生かした『ドクターX』のフリーランスの医師で人気は確かなものになった。

2021年、デビュー時から事務所から所属していた事務所を独立した米倉は俳優のみならず、自身の事務所の社長としても活動するようになった。他人任せでなく自ら仕事も選んでいく、まるでフリーランス大門未知子的な生き方に近づいたようである(会社といっても個人会社なので)。

仕事の幅を広げ、独立もして……と米倉涼子のライフスタイルはステキだなとは思うもの、役のイメージから凡人には手の届かない生命力の強い人物という印象があり、その生き方を参考にできるとはあまり思えなかった。が、1月5日に放送されたテレビ番組『TOKIO カケル』(フジテレビ)では旧知の松岡昌宏が女優は“男”とよく言われるが米倉涼子は“女”(大意)であると語っていたことで少し印象が変わった。

何をもって男であり女であるかはジェンダー平等の観点から語ることは難しい。ただ、これまで「女優は男」という考え方には主として精神的に逞(たくま)しいという意味合いがある。

番組では、なんでもクールにやってのける人に見えて、役とは違ってちょっとしたことにはにかんだりして、そこが可愛らしく見えた。また、独立してからインスタを開設してフォロワー数が増えなかったらどうしようと不安だったと語ったことにも意外性があった。米倉涼子が心配するようなことじゃなさそうなことを気にするのだなあと興味深かった。

前述のいわゆる「女優は男(精神的に逞しい)」とは確かに似つかわしくないリアクションだったのだ。

米倉の真剣な表情が彼女の成功要因

さらに、1月9日に放送されたテレビ番組『日曜日の初耳学SP』(TBS)で林修のインタビューへの米倉の回答も意外だった。

大好きな『CHICAGO』に出たい一心で主役を勝ち取り、ブロードウェイまで行ったサクセスストーリーを骨太な根性話にはしない。

歌も英語も得意ではないながらバレエ経験を生かして夢を叶えていく過程が、とりあえずやりたいと言葉や行動に出してみるという最初の一歩の話だけで、どうにも彼女の実力の秘密が見えてこない。その場で感じたことを大事にするというようなことはよく言われる話だしなあという感じ。でもなぜか米倉涼子に対してはネガティブな印象が沸かなかった。

小姑(こじゅうと)体質の筆者がそう感じないことは珍しい。なぜだ。彼女の顔が真面目だからかもしれない。甘えた感じがしないのは得である。歌も歌えないし……と言ってもほんとは真面目にレッスンしているんじゃないかと勝手にいい印象を持ってしまう。

米倉涼子のこの真面目な一点凝視の眼差しと意思の固そうな口元、その真剣な表情が彼女の成功要因ではないだろうか。最新作のNetflix『新聞記者』はまさに彼女のその特性が活かされている。