ヨガを長く続けていると、ある時点からポーズよりも呼吸や瞑想を深めたくなる人が多いのではないでしょうか? 私自身もヨガ歴が20年を超えたあたりから、年齢のせいもあるかもしれませんが、呼吸法の練習がこれまで以上に楽しく感じます。
これまで「呼吸が大事」と何千回、いや何万回と聞いてきましたが、その意味がようやくわかりはじめているような気がします。
しかしこの呼吸の難しいこと!
ここでは私たちがヨガで目指す「質の高い呼吸」について詳しく掘り下げていきます。
そもそも人は何のために呼吸をしているの?
当たり前のことですが、私たち人間は呼吸をしなければ死んでしまいます。
人間が生きる上で水と睡眠は非常に大事で、食事を取らなくても水さえあれば2〜3週間は生きることができるとされます。
しかし、この水と睡眠よりも重要なのが呼吸です。
ギネス記録によれば、水中で24分程度息を止めに成功している記録がありますが、普通の人は1〜2分息を止めればギブアップするはず。
たった1分程度でも人は息を止めていることができない事実を考えると、呼吸ほど生命に直結している行動は他にありません。
そもそも呼吸はなぜ必要なのか。
呼吸の中でも「吸う」という行為は、空気の中に含まれる酸素を体内に取り入れるために行われます。
さらに取り込まれた酸素は、食事から取り込まれた栄養素と結びつきエネルギーとなることで、私たちの生命活動を担います。
その際に必ず生まれる二酸化炭素は、「吐く」によって体外に排出されます。
「吸う」と「吐く」は常にセットで行われます。
普通の生活をしていると1分間に17〜18回くらいの呼吸が行われているとされますが、1分という短時間の間にも私たちの体は生きるために、私たちの意志とは関係なく「吸う」と「吐く」によって行われる生命活動を担っているのです。
呼吸の回数と思考の回数の関係性
ヨガをしている私たちにとって「調息」、つまり呼吸を整えることが「調身」、そして「調心」に繋がること、さらにその背景には自律神経系のコントロールが行われていることや、血圧、腹圧などの調整が行われていること、血液やリンパの流れの調整が行われていることなどは良く知られていることです。
呼吸を調整することの恩恵はこのように生理学的にも解明されていますが、ヨガをしている私たちが呼吸の調整によって最も恩恵を受けているのはやはりマインドの部分ではないかと感じます。
よくヨガのクラスで言われるのが「呼吸に意識を向けると心が静かになる」とか、「呼吸の速度を下げると、思考の速度もゆっくりする」などです。
つまり呼吸と思考は密接に関係しているということ。
呼吸と思考については脳科学的によって研究が進められていますが、まだわかっていないことも多いようです。
ただ、個人的にはそれぞれの回数に着目しています。
私たち人は1日に約3万回呼吸していて、思考はその倍の約6万回とされます。
しかも、1日約6万回の思考のうち8割はネガティブなことを考えている、という話を聞いたことはないでしょうか。もちろん個人差もあるでしょうが、大切なことは「無意識でいるとネガティブなことを考えるのが人間」ということです。
そして「私たちは1日約3万回の呼吸を無意識に生きるためだけに行い、1日に約6万回の思考を無意識にネガティブに繰り返しがち」ということです。
もっと平たく言えば「私たちは1日のほとんどを無意識な呼吸で過ごし、1日のほとんどを無意識にネガティブな思考で過ごしている」と言い換えられます。
呼吸を意識すると思考が静まるメカニズム
一度でも呼吸法の練習をしたことがある方ならわかると思いますが、呼吸に意識を向けると私たちは思考から解放されます。
何か考えごとが浮かんできても、それに気づいた段階で意識を呼吸に戻すことが呼吸法の練習です。
これを繰り返すことで、呼吸に意識を向け続け、思考から意識を切り離す時間を徐々に伸ばすことができます。
つまり、呼吸に意識を向けている時間は、少なくともネガティブなことを考えられない時間になるのです。
「呼吸法を行う」というのは「無意識でいるとネガティブになる思考を鎮める」と言い換えられるでしょう。
無意識の呼吸ではなく、意識した呼吸法が自律神経系や呼吸器系だけでなくマインドに働きかける理由はここにあります。
もっと言えば、呼吸に意識を向ける時間が1日に1分もない人は、ただ生きるだけの呼吸を繰り返し、どうしてもネガティブになりがちな思考についても放置しているということです。
無理にポジティブなことを考えたり空想に耽ったりするのではなく、ただ呼吸に意識を集中させるだけで、私たちは思考から離れ、ネガティブから離れられるのです。