【一炷香】いっちゅうこう:荒れ狂う感情を見つめる時間が人生への耐久力を装備する
※「ちゅう」は火へんに主
一本のお線香が燃える時間を意味する「一炷香」。お線香が燃え尽きるまでの時間は私にとって、とても特別な時間です。この時間の大切さを私はみなさんにお伝えしたいと思います。
線香幼い頃、師匠でもある父は非常に怖い存在でした。叱られると、容赦なく本堂の奥にある部屋に閉じ込められました。そこは、歴代の住職の御位牌と御開山様の仏像が安置してある特別室です。私を閉じ込めるとき、父はお線香を一本立てました。それが燃え尽きるまでそこで反省していろ、というわけです。
無鉄砲でやんちゃだった私は、何度も繰り返しそこに閉じ込められました。真っ暗な中にお線香の赤い点とろうそくの炎だけが見えていて、怖いのと悲しいのと同時に自分だけが閉じ込められたことが悔しくて、最初はぎゃんぎゃん大声で泣き叫びました。
怒りをもたらしたのは、他人でなく自分の心
しばらくして目が慣れてくると、あちこちから仏様が自分をじっと見ていることに気づき、ぎょっとします。そして、だんだん叫ぶ声が小さくなり、ぶつぶつと言い訳を始めます。「兄ちゃんもやっていたんだ」「妹が最初に手を出したからいけないんだ」などなど。 一通り言い訳が終わると、だんだん心が落ち着いてきて、僕もちょっとは悪かったかもしれない、という気持ちが芽生えてきます。お線香の太さや長さによっても異なりますが、燃え尽きるまでの時間はだいたい30分から1時間。許されて部屋を出される頃には、すっかり心が静まりおとなしくなっていました。
年齢を重ねるにつれ、辛いこと、苦しいことがあると、自分で率先して本堂に座り、「一炷香」の煙に包まれる時間を過ごすようになりました。 そして、ここが肝心で、そのように自分を見つめる時間を経ると、どんな場合も、怒りをもたらしたのは、他人ではなく、自分の心であったということに気づきます。