「ERA検査(子宮内膜着床能検査)」が近年のトピックになっています。ERA検査とは、受精卵を移植する日の子宮内膜が、着床可能状態にあるかどうかを測定する検査です。まだ研究段階にもありますが、不妊治療において画期的なERA検査について、山中智哉医師が詳しく解説します。

ここまで体外受精についてお話ししてきましたが、今回は最近のトピックスのひとつになっている「子宮内膜着床能検査(ERA検査)」についてお話しします。

不妊治療を繰り返し行っても、なかなか妊娠に至らない方の中には、「子宮内に到達した胚が着床しやすい時期」と「子宮内膜の着床しやすい時期(implantation window)」にずれがある可能性があります。

通常、子宮内膜は女性ホルモン(エストロゲン)の作用によって、次第に厚みを増していきます。その子宮内膜が受精卵を受け入れるためには、さらに黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用が必要となります。

子宮内膜が着床しやすい時期は、一般的に「黄体ホルモンが作用してから5〜6日目」と考えられていて、その時期を「着床の窓(implantation window)」が開いているという言い方をします。

自然妊娠においては、排卵後、卵子は卵管内で精子と受精し、5〜6日かけて卵管内で分割を続けながら、最後は胚盤胞となって子宮内に到達します。それと並行して、排卵後の卵巣には黄体が形成され、黄体ホルモンが分泌されることによって、子宮内膜では着床の窓を開く準備が進められていきます。

この原理に基づいて、体外受精において、受精卵(胚盤胞)を子宮内に移植する際の標準的な方法は、黄体ホルモンが子宮内膜に作用し始めてから5日目に胚移植を行なう、というもの。

■ERA検査とは

しかし、最近の研究で、着床の窓には個人差があり、5〜6日目ではなくもっと早い場合や遅い場合があることがわかってきました。

胚盤胞となった受精卵が、子宮内膜に着床するためには、着床の窓が開いている期間よりも早すぎても遅すぎてもいけません。

ずれがある人の場合、何度標準的な時期に胚移植を行なっても着床の可能性が低くなり、不妊治療を反復してもうまくいかない原因のひとつだと、考えられるようになりました。

「ERA検査」は、その子宮内膜の着床能に関わる遺伝子発現を検出し、「そのずれが何日間あるのか」まで測定できる検査です。

■ERA検査の方法

はじめに、胚移植を行なう周期と同じ方法(ホルモン補充周期または自然周期)で、子宮内膜環境の準備をします。

内膜が十分に厚くなったあと、黄体ホルモンが子宮内膜に作用し始めてから、5日目に子宮内膜を採取して検査に提出します。

子宮内膜の採取には、ピペールと呼ばれる器具を用い、内膜を吸引するように採取します。子宮口が狭い方や、子宮の屈曲が強い方はいくらか痛みを感じるかもしれませんが、胚移植がスムーズに行えている方であれば、それほど困難なく5分ほどで終了します。

検査結果は2週間ほどでわかり、子宮内膜を採取した日が、着床の窓とちょうど一致しているのか、あるいは何時間早いのか、遅いのかということが数値で示されます。

実際にずれがあった場合、標準的な胚移植の時期から、ずれの分だけ移植の時間をずらして胚移植することができます。

検査の費用は施設によって異なりますが、15万円前後のところが多いようです。

■不妊治療を繰り返している夫婦をサポートする検査

ERA検査は画期的な検査ですが、まだ新しく、研究段階の部分もあります。「着床の窓」が開いている期間についても「24時間前後」や「2日間ほど」というように、幅があります。2日もあるなら、それほど厳密に検査をする必要があるのかという考え方もあります。

ただ、自然妊娠の場合には、排卵後、受精卵がたまたま5日間ではなく7日間かけて子宮内膜に到達し、偶然、着床の窓のずれに当たるということはあり得ます。

一方、体外受精の場合は、多くの場合、薬剤によってホルモンの状態がコントロールされているため、そういった偶然が起こり得ません。言い換えれば、必然的に不適切な時期に胚移植を繰り返してしまう可能性もあるということです。

そう考えると、ERA検査は、不妊治療を繰り返し行なってもよい結果が得られないご夫婦にとって重要な検査であり、不妊治療医としても、より厳密で的確な治療につながるものといえるでしょう。


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