独身俳優は役の幅が狭まってしまう
独身俳優が窮屈(きゅうくつ)そうに感じるのは結婚、あるいは恋愛すら公的にできないことだけではない。役の幅が狭(せば)まってしまうことである。 女性人気を大事にする俳優の場合、演じる役もたいてい女性の視線を意識して二枚目役である。清廉潔白な主人公、ヒロインの恋人ないし夫役など、女性客が相手役に自分を重ねて妄想して楽しいような役が多くなりがちだ。 佐々木蔵之介が朝ドラこと連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年度前期 NHK)で演じた役は、亡くなった妻のことを忘れられず再婚しないでいる料理人(妙齢の娘がいる)。終盤、和久井映見演じるピュアな女性と心を通わせていく。彼女もまた亡くなった恋人を忘れられず長らく独身を貫いているという設定で、佐々木の役は朝ドラを見ている中年女性に夢を与えてくれるようだった。
「IP~サイバー捜査班」(画像:テレビ朝日公式サイトより)
そういう意味では「IP~サイバー捜査班」も「和田家の男たち」も子供はいるがパートナーの場所は空席という役。パートナーの席が空白というところに妄想の余地が残されているところは「ひよっこ」の頃と変わらない。 シンプルに一家のお父さんではなく少々クセのある設定になるわけは、男女問わず独身俳優にはどこか生活感が薄いこともあるだろう。俳優は何でも演じることが仕事とはいえ、やっぱり体験したことのほうにリアリティーが出ることも否定はできない。
玉木宏、西島秀俊、三浦翔平、田中圭、松坂桃李も幅を広げた
女性人気を重要視してきた俳優たちは、結婚すると役の幅が広がって俳優として面白さが増していく。 例えば玉木宏はここのところダーティーな役柄が増えた。「極主夫道」(2020年 日本テレビ)の家事の得意な極道は、結婚したことを生かしたうえ男臭いキャラができて、玉木宏の可能性、全部乗せ感があった。
(画像:『極主夫道』読売テレビ公式サイトより)
西島秀俊は生活感のない役か任務のためには家庭も顧みない公安刑事の役が多かったが、結婚後は家電のCMなどに出て良き夫的なイメージが強調された。これには「きのう何食べた?」の影響もあるかもしれない。家庭的な面を同性のふたり暮らしの物語でアップさせたのは快挙である。 三浦翔平も結婚してから、無難なイケメン役ではなくクレイジーな役をやって一皮剥(む)けたように感じる。 田中圭は「おっさんずラブ」でブレイクした時、すでに結婚していたが、コメディドラマであれだけ吹っ切った表現をしたうえにコメディにもかかわらず愛情の深さを演じきったのは、やはり守りに入らずに済んだからではないだろうか。 松坂桃李も結婚後に放送された「今ここにある危機とぼくの好感度について」や「あのときキスしておけば」などのドラマ、公開された映画「孤狼の血Ⅱ」など、女性観客の嗜好に寄せていっていない役がいい。