老後の生活は公的年金だけで足りるのか

上記の通り年金給付額の計算にはさまざまな要素がからんでいます。「理屈はいいから、具体的に老後の生活がどうなるのか教えてほしい」という人もいるでしょう。平均的には以下の通りです。

統計的には明らかに足りない

2017年度における厚生年金の平均的な支給額は約14万7,000円です。(基礎年金含む)妻が専業主婦であれば、基礎年金の約6万5,000円を加えて、世帯年収は約21万2,000円となります。公益財団法人生命保険文化センターが2016年度に実施した「生活保障に関する調査」によると、夫婦2人が必要と考える生活費の平均は約22万円という結果でした。

データだけを比較すると年金収入だけでもなんとかなりそうですが、これはあくまでも必要最低限の金額です。ゆとりある暮らしの場合、必要とされる生活費の平均は約34万9,000円でした。年金収入が約21万2,000円だとすると、毎月の赤字は13万7,000円です。30年間この状態だとしたら、4,932万円必要になります。

2019年6月に金融庁が発表した報告書では、総務省統計による平均値として実収入は約20万9,198円、実支出が約26万3,718円で算出。この場合、毎月の赤字が約5万4,520円となり、30年間で必要な老後資金は約1,962万円でおおむね2,000万円となります。国会でも取り上げられニュースになったので、ご存じの人も多いでしょう。

これらを踏まえると年金だけで豊かな生活を送ることはできないのは明らかです。よくイメージされる「退職後の悠々自適な暮らし」は誰にでも訪れるとはかぎりません。

介護費用にリフォーム、孫への支援。お金は豊かな生活を生む

金融庁の報告書における老後資金の「2,000万円」には、非経常的な支出は入っていません。具体的には介護費用やリフォーム代、子供や孫への援助などです。公益社団法人生命保険文化センターの2018年度「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護サービスなど月額費用の平均は約7万8,000円、平均介護期間は54.5ヵ月でした。またバリアフリー設備の導入などの一時費用が約69万円です。

これらの合計をすると、494万1,000円になります。あくまでも平均なので、介護の状態によってはさらにかかる可能性もあるでしょう。そのため介護費用は500万円ほど用意しておくと安心です。持ち家の人は、リフォーム代も老後の人生設計に入れておくことが賢明でしょう。住宅の設備は水回りなどの内装設備で20年、屋根や外壁などの外装で30年周期の交換が必要だといわれています。

かかる費用は瓦屋根の交換で70万~120万円、システムキッチンの交換で40万~80万円などです。また国土交通省2016年度「住宅市場動向調査」によると、リフォーム全体にかかる費用の平均は約231万円程度になります。その他にもケガや病気で入院・通院することもあるかもしれません。旅行や趣味で人生を謳歌したい人も多いのではないでしょうか。

日常的な赤字になると予測されている約2,000万円に突発的な支出を加えると、介護費用の約500万円、リフォーム代の約231万円の合計2,731万円です。さらに葬儀費用を約200万円とすると、最低限必要な老後資金は約2,931万円にも膨らみます。もし趣味や旅行などで年間30万円使うとすると、さらに900万円程度は必要です。

豊かな老後を送るために必要な資金は、各種統計から積み上げて計算すると約3,831万円になります。公益財団法人生命保険文化センターによる調査の「ゆとりある暮らし」に必要と考えられる額から計算すると4,932万円でした。平均寿命の伸びや少し余裕をもっておくことを考えると5,000万円ほど欲しいところです。

今の100円と30年後の100円の価値は違う

豊かな老後を送りたいのであれば、年金以外に約5,000万円を確保する必要がある……このように記載すると途方もない金額に思えるかもしれません。たしかに給与収入と節約だけで貯めようとすると大変です。しかし決して不可能ではありません。60歳代の平均貯金額は約2,000万円です。普通にがんばれば、最低限必要な額には届くのです。さらに努力した分だけ、老後の生活は豊かになります。

退職金がもらえるのであれば、老後資金の計算に入れても良いでしょう。支給額を職場の規定で確認してみてください。平均は1,700万~2,000万円ですが、低下傾向にあることを考えると、1,500万円と見てみいたほうが良いかもしれません。豊かな老後を送るのに必要な資金はあと3,000万円です。1,500万~3,000万円をわずかな期間で貯めようとしたら大変です。

しかし長期にわたって少しずつ積み立ていけば無理なくできます。そのときに大事なのは時間を味方につけ、捻出したお金を増やして行くことです。ただ貯金しているだけでは、増やしていくことは難しいでしょう。現代のように銀行の定期預金利息が0.01%程度の時代では、1%増えるのに100年かかります。そのため若いうちから老後資金の原資を意識して、運用で増やしていくこと一番の近道です。

もう一つの対策として、老後の収入を年金以外にも持つことが考えられます。どちらかといえばこのほうが安心で確実です。なぜなら先ほど述べたような物価上昇のリスクを回避できるからです。3,000万円を目標に貯めても、それが20年後に現在と同じ価値のままとはかぎりません。しかし物価に合わせて変わるような収入があれば、その心配は不要です。