石原さとみの自由奔放な役柄にも注目

田中圭の父親役が、理想オブ理想だった…。映画『そして、バトンは〜』で見せた演技の凄さ
(画像=『女子SPA!』より引用)

 その他の役で重要なのは、やはり石原さとみだろう。容姿は美しいが自由奔放でたくさんの男と付き合っており、幼い娘のみぃたんはたびたび寂しい想いをしている。客観的にははっきり言って「毒親」でもあるし、実際に決定的に嫌いになってしまいそうなシーンもある。  だが、そんな母でも石原さとみだからこその(幼い娘から見ると)華やかさや格好良さがあるし、娘へ全身全霊で愛情を捧げるような言動もするので、どうしても憎めない。子役の稲垣来泉との掛け合いは「どこかギクシャクしている」ところも含めて、リアルなものとして感じられるだろう。  さらなる注目はピアノ演奏を得意とする高校の同級生を演じた岡田健史で、実際の彼はピアノ演奏の経験がないどころか「鍵盤の『ド』ってどれですか?」と聞くレベルだったものの、撮影の半年前から始めたレッスンは本人の興味と楽しさもあって回数が増えていき、「アンパンマンのマーチ」をダイナミックにアレンジして弾くまでに上達したという(劇中では岡田健史本人が実際に演奏しているところもあるものの、「アンパンマンのマーチ」を弾くシーンでは音に合わせてピアノを弾く動きは岡田健史本人が、実際の演奏は別の方が担当しているとのこと)。  その迫力の演奏シーンだけでなく、彼もまた見た目が美しく、それ以上に家庭環境に悩み、不器用だからこその複雑な内面のギャップが際立つハマり役であった。  また、永野芽郁もピアノ演奏の経験がなかったが、3ヶ月前からの演奏で存分に上達し、中盤の見せ場で演奏と泣きの演技を両方を見事にやってのけている。その「本物」の演奏も楽しんでほしい。

原作小説からの大胆アレンジ

 この映画『そして、バトンは渡された』は、原作小説からの大胆なアレンジが「構成」から行われていることも特徴だ。どういう構成であるかを具体的に記すと、それ自体がネタバレとなってしまうので、ここでは伏せておこう。  だが、その「仕掛け」は決して奇をてらっただけのものではなく、劇中でそこはかとなく提示されている「違和感」がミステリー的な興味を引き、愛情と嘘が混じり合ったような「秘密」がより鮮烈に感じられるようにもなる、エンタメ性とメッセージ性を押し上げた、確実なプラスの効果を生んでいた。  そして、物語そのものは、前述したように石原さとみ演じる自由奔放な義理の母親や、田中圭演じる不器用だけど優しい義理の父親など、さまざまな親に育てられてきたこと、もっと言えばその人にとっての「幸せなかたち」を肯定するものだ。