デビュー作『卵の緒』(2001)で第7回坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、複雑な環境下での「家族愛」や等身大の「青春」を温かみのある筆致で繰り返し描いてきた小説家・瀬尾まいこさん。
瀬尾まいこさん
第16回本屋大賞を受賞した話題作『そして、バトンは渡された』(2018)が今回映画化され、2021年10月29日(金)から全国公開されています。 4回苗字が変わっても前向きに生きる優子(永野芽郁)と義理の父・森宮さん(田中圭)。そして、シングルマザーの梨花(石原さとみ)と義理の娘・みぃたん(稲垣来泉)。優子が初めて家族の“命をかけた嘘”を知り、想像を超える愛に気付く物語の本作。 デビュー作に続き再び描かれる「血縁のない親子関係」から見える様々な愛情表現や子どもという存在の大切さ。「普段思っていた気持ちを書けた作品」と語る瀬尾さんに話を聞きました。
「自分自身が普段思っていた気持ちを書けた作品」
瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫 刊)
――デビュー作『卵の緒』(2002)では血縁のない親子が描かれ、2019年「本屋大賞」を受賞された本作『そして、バトンは渡された』でも複雑な親子の環境を再度描いたきっかけがあったのでしょうか? 瀬尾まいこ(以下、瀬尾):『そして、バトンは渡された』は2014年に娘が生まれてから、最初に書き始めた小説でした。子どもに対する愛情を描けたような気もします。 2011年までの15年間、中学校で教員として働いていました。そのときに、担任を持っていたクラスの子どもたちに対する愛情って、わが子に対する思いとそんなに大差がないと思います。子どもに対する愛情って、血の繋がりはあまり関係ないのかなと思います。 この小説を書きだした最初のころは、主人公の優子がたくさんの愛情に恵まれていたら、別に親がころころ変わっても不幸ではないなという思いで書いていました。ですが、書き進めるにしたがって、愛情を受ける以上に、愛情を与える“あて”があることが、もっと幸せなことだと気づきました。自分自身が普段思っていた気持ちを書けた作品だと思います。 ――娘さんが生まれてからは、考え方が変わったんですね。 瀬尾:小さい子どものことが分かったり、親と子の関係性を考えるようにはなりましたね。娘のことは愛おしく思いますが、別に血が繋がっているからそう思うわけではありませんし、お腹を痛めたからこそ可愛いわけでもないんです。一緒にいて一緒に時間を積み重ねているからこそ、愛おしいんです。
さまざまな愛情のカタチと愛情表現の方法
映画『そして、バトンは渡された』より (C)2021映画「そして、バトンは渡された」製作委員会
――優子にはモデルがいたのでしょうか? 瀬尾:モデルはいません。血が繋がってないお父さんと暮らしていますが、優子は、それぞれいろんな立場にある大人から愛情を注いでもらっています。どんなかたちであれ、愛情を注いでもらったら幸せです。 ――愛情の描き方が非常にユニークでした。優子のお父さんである森宮さん(映画版では田中圭さんが演じる)と、17歳の優子の会話が面白いなと読んでいたのですが、四六時中「父親らしさ」にこだわる森宮さんの愛情表現については、どのようにお考えでしょうか? 瀬尾:森宮さんは、何とか父親として出来る限りのことをしたいと思っているのだと思います。だから、父親ってこれでいいのかなと不安になって、本当の父親がやっていることはすべてやってあげたいという気持ちが溢れ出まくっています。 どうしていいか分からないけど、何かしてあげたい。始業式ならカツ丼かな、餃子かなと、ああしてあげたい、こうしてあげたいという。 逆に梨花さんは、間違っているかもしれませんが、ピアノがほしいとなれば、何としても手に入れるために突っ走ります。何が正しいのか分かりませんが、それぞれいろいろな思いを抱えながら、愛情を表現しているんだと思います。