江戸と東京の歴史と文化を振り返りながら、未来の都市生活を考える場所として1993年に開館した「東京都江戸東京博物館」(以下、江戸東京博物館)。JR総武線「両国」駅の目の前、ダイナミックな外観の建物が目印です。
同館では10月9日より12月5日まで特別展「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」を開催中。遠い存在と思いがちな縄文時代ですが、実はその暮らしぶりは現代とつながる部分もたくさん。今回の特別展では、調査結果を元に最新の縄文時代像を考察、今までの縄文の印象を一新する発見を伝えてくれます。
「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」とは?
特別展「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」のエントランス 教科書や資料でしか知り得ない、はるか昔の縄文時代ですが、実は1万年以上続き現在につながる生活の礎を築いた時代でもありました。
「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」では、江戸や東京の文化と歴史を展示する「江戸東京博物館」ならではの視点で縄文時代を考察します。
主なテーマは2つ。1つ目は“東京”をテーマにしていること。2つめは近年注目を浴びている土偶をはじめ“縄文の暮らし”に焦点を絞っている部分。特に常設展での復元模型や再現展示など同館ならではの技術と実績を駆使し、最新の調査結果を元に新たな縄文時代像を提示しています。
今回の展覧会では、「江戸東京博物館」の所在地である“東京”エリアに限定し焦点を当てることで、当時の東京での生活環境や人々の過ごした時間が生き生きと蘇ります。なお、東京に絞った縄文時代の展示会は1986年銀座ソニービルで開催の「第2回 東京の遺跡展」以来約35年ぶりです。
「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」の展示構成をご紹介
第1章 東京の縄文遺跡発掘史
「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」の展示構成はプロローグとエピローグを含む全6章。まずはプロローグのエリアに入ると土偶「多摩ニュータウンのビーナス」が来場者を静かな微笑みで出迎えてくれます。
丁寧に仕上げられた造形に、目元の2本の塗彩、そして表情などじっくり眺めていたい要素が満載。
パネル展示では、「最新の調査成果から考える縄文時代像」として、ここ20年ほどで従来の縄文時代像が激変したことや当時の自然環境などがわかります。
続く「第1章 東京の縄文遺跡発掘史」では、約3,800ほど発見されている東京の遺跡からよりすぐりの縄文遺跡を選出。コーナー最初には、明治時代に発見された「大森貝塚」の貴重な遺物が多数公開されています。
同貝塚の場合、資料全体が一括で重要文化財に指定されているため通常では見ることのできない破片など細かい遺物とともにアメリカの動物学者エドワード・S・モースによる当時の実測図も展示。
また、東京の著名な6つの縄文遺跡も遺物とともに紹介。島、沿岸部、台地、山地とさまざまな地形を有する東京で、縄文人が土地の特色に適応した暮らしをしていたこともわかります。
沿岸部は「日暮里延命院貝塚」「雪ヶ谷貝塚」、台地は「落合遺跡」「忠生遺跡」、山地は「駒木野遺跡」「下野原遺跡」をピックアップ。
第2章 縄文時代の東京を考える
第2章では、東京エリアでの長期にわたる発掘によって蓄積された成果を一気に紹介。ポイントとしては“集落”と“葬墓”、そして“道具”を中心に展開し、当時の東京とはどのような場所だったのかを紐解いています。
“葬墓”では、南関東で縄文後期に副葬品として注口土器や鉢を一緒に埋葬することが流行っていたり、集落の中心にお墓が作られ墓を囲むように集落が形成されていたことに言及。
道具ゾーンでは石器から土器、木器に骨格器まで東京エリアで見つかった遺物がずらり。時期ごとに一気に並べることで、形や造形美、技術の移り変わりなどが理解しやすく、その技術力の進化には驚くばかり。
通常は収蔵庫で眠っている重要文化財の「石槍」をはじめ、本特別展だからこそ観られる遺物もたっぷり。
また、土器もその進化の変遷を一気に辿れるのがポイントです。特に中期から後期に向けてが見もの。中期は豪快で過度な装飾が目立つのに対し、後期は洗練され繊細な作りに移行しています。
第3章 縄文人の暮らし
第1章、第2章で学んだ縄文時代の東京生活をさらに踏み込み具体的にビジュアル化したのが「第3章 縄文人の暮らし」。テーマは貝塚(海岸部)と環状集落(丘陵部)の2つ。
まずは東京には貝塚がとても多いことから海岸部の暮らしに注目。原寸大にこだわり当時の縄文人が見ていた風景が追体験できます。「貝層剥ぎ取り標本」から「中里遺跡」の「丸木船」、そして「ムラ貝塚再現展示(西ヶ原貝塚)」など、会場は発掘現場さながら。
一方の丘陵部では「多摩ニュータウンNo.107遺跡」の1/20模型を展示。具体的に環状集落の形成を観察できます。中央のお墓を囲むように立ち並ぶ住居や、木を倒したり土器制作したりする人々など、日常的な風景を楽しめまるのが魅力です。
また、集落の外側には廃絶された住居跡を活用したゴミ捨て場が。先ほどの「ムラ貝塚再現展示」同様の場所が近場にあることが理解できます。なお、ゴミ捨て場の外に新たに住居が建てられることはなく、どんどん中側に近づいていくこともわかっているそう。
なお、こちらのエリアには東京都内で発見された100点の土偶も展示。有脚形やハート形、遮光器系にみみずく土偶に山形などバリエーションと表情の違いを楽しめます。
第4章 考古学の未来
特別展のラストは「第4章 考古学の未来」とエピローグ。パネル展示を中心に、高度経済成長期以降の発掘検査の調査の増加により遺跡が身近な存在になったことに言及。生活との接点が増えたことで人々が“考古学を楽しむ”段階になったと解説。
なお、エピローグでは「埋蔵文化財の保護と活用」を紹介。地層に樹脂を吹き付け、そのままの形で表面を剥ぎ取った「居木橋貝塚標本」展示や世界遺産登録や観光資源としての活用など、最新の考古学の保存方法や未来への展望を解説しています。
「縄文2021ー東京に生きた縄文人ー」の楽しみ方
今回の特別展では、東京都内の約3,800もの縄文遺跡から厳選した、約1,000点以上の出土品や資料、再現模型を展示。通常では見られない貴重な文化財を間近で観察できます。これだけは外せない!とっておきの遺物をこの章ではピックアップ!
江戸博ならでは!丁寧に再現された“縄文ゾーン”模型はじっくり見がおすすめ
江戸博ならではの技術で生み出された復元展示”縄文ゾーン”は大きな見所。ムラにおける住居や日々の仕事風景に食料採取、生活のワンシーンを再現。現在の生活様式と照らし合わせてみたり、同館5・6階の常設展室の模型とも比較してみると、共通項も!?
縄文時代中期を再現した「環状集落再現模型」は、「多摩ニュータウンNo.107遺跡」を1/20で再現。多摩丘陵の縄文ムラで老若男女20人余が、食べ、狩り、遊ぶ様子を観察できます。各住居がきちんとプライベートが保てる距離にあり、便利な場所にゴミ捨て場があるなど、快適に暮らせる工夫は現代と通じる部分が発見できます。ぜひ上から、横から角度を変えてじっくり観察しましょう!
個性豊かな100点の土偶たちがお出迎え。動画も写真もない時代は土偶で残す!?
縄文時代中期から後期にかけての土偶を約100点展示。祈りや祀るために作られたとされており、その表情や形、体型はさまざまです。
必見なのは、ほぼ完形に近い形で出土した「ハート形土偶」。縄文時代後期の作品で人型をしています。誰かを呼んでいるようにも、笑顔にも見える表情はとてもユニーク。
国宝土偶はアートそのもの。曲線美にうっとりの女神系土偶もチェック
特別展では、造形美溢れる国宝の土偶を2体展示。10月19日から11月14日まで期間限定展示の国宝「土偶(縄文のビーナス)」は滑らかな曲線をはじめ八ヶ岳山麓の土偶の特徴をもっています。安定感のある体型と洗練された表情、そして頭部の装飾など現代彫刻にも通じる普遍的な美しさが魅力です。
さらに11月16日より展示される国宝「土偶(仮面の女神)」は母性とともに力強さも感じる作品。逆三角形の特徴的な頭部に全身に刻まれた紋様とどっしりした体型で、全身がほぼ完璧に存在する大型の土偶として圧倒的な存在感を放っています。
縄文時代といえば石ナイフに縄文土器。実用性と造形美を深掘り!
縄文時代といえば、道具の定番は縄文土器や石を使った石槍やナイフ、矢尻が定番。今回の展示では、実用性や機能美の視点からも同時代の道具を紐解きます。中でも注目したいのが重要文化財の「石槍」7点です。
長いものは棒の先に括り付け、短いものは投げて使用すると考えられています。見た目は石ですが、実際は切れ味や威力もあるとのこと。一部が折れているなど、当時の狩りの様子がうかがい知れる逸品です。
縄文土器最大の特徴は、紐を使って付けた縄目模様や紋様、うねるような装飾など。そのなかでも「鳥形把手付深鉢形土器」は動物と縄文人の関係性を表現した土器。通常の縄文土器とは一線を画す幾何学的でシンプルな紋様と鳥の頭部を模した造形を取り入れ、華麗さも併せ持っています。
ほかにも今と形がほぼ変わらない「注口土器」など、まさに現代の礎を気づいた時代であることが分かります。
想像以上の広範囲で交易も!?ファッションアイテムも多く出土
現代同様に交易も盛んだった縄文時代。遠隔交易地との交流があったことが伺える出土品も多数あります。東北地方南部の特徴的な造形が見られる「浅鉢形土器」もそのひとつ。大きなムラには、他のエリアのムラとの交流があったことを示す貴重な資料です。
また、日本一の翡翠の名産地・新潟県糸魚川産の翡翠を使った装飾具「翡翠製大珠」をはじめ、東京で出土した全54個の翡翠が並べられ、当時のネットワークの広さが窺い知れます。
現代のピアスにも通じる重要文化財「土製耳飾」も必見。縄文時代の後期から晩期にかけてのファッションアイテムで、同時期に多く出土します。耳たぶの穴にはめる形だったとのこと。
なお、交易や漁業で幅広く利用されたと推測される乗り物も公開。代表的な「丸木舟」は、現代のカヌーのような形で全長6.2m。
特別展オリジナルグッズも販売。図録は読み応え抜群の充実度
特別展開催にあわせオリジナルグッズなどをショップで販売。図録「東京に生きた縄文人」(2,640円)は、全155ページとボリュームたっぷりで読み応えあり。各展示エリアの詳細はもちろん対談も収録。特別展の鑑賞前、観賞後と読み込みたい充実度です。
また、「トートバック」(935円)や「マルチホルダー」(462円)「ポストカード」(150円)「刺繍缶バッジ」(660円)なども各種ラインアップ。会期中オリジナルアイテムは随時追加されるとのことです。