せっかく出版翻訳家としてデビューしても2冊目の本が出せない理由のひとつに、「現実と理想のギャップにやる気をなくしてしまった」ということが挙げられました。「思っていた仕事と違った」というミスマッチを防ぐためにも、出版翻訳家の仕事をあらかじめよく知っておくことをすすめします。

今回は、「こんなことも出版翻訳家の仕事なんだ!」と、私自身がやってみてわかったことについてお伝えします。

調べ物

これは比較的、予想がつくことだと思います。ただ、調べ物といっても、単に訳語を調べるだけではなく、背景情報などを調べなければいけないことが多いものです。ネット検索でたどり着ける情報ならいいのですが、それではわからないこともよくあります。その場合には、知人に尋ねたり、関係者に問い合わせたり、あらゆる手を尽くして調べなくてはいけません。

以前に、拙訳書『虹色のコーラス』の翻訳で、スペインのリセウ大劇場周辺の様子がわからなかったことがあります。原文をそのまま読むと彫刻が並んでいるらしいのですが、「トイレの便座に座っている男性」など、「そんなおかしな彫刻を立派な劇場の周辺に飾るかな?」と納得がいきません。現地の写真をネットで調べても、そんな彫刻があるようには見受けられません。翻訳をしていて最後まで謎で残っていたのですが、編集者さんの知人の方が現地に行ったことがあり、彫刻のように動かないストリートパフォーマーの画像を送ってくれました。おかげで「このことだったのか!」とわかったのですが、現地に行ったことがあればピンとくることでも、その場所になじみがないないと想像もつかないことは結構あります。そのため、調べ物にはかなりの時間を費やすことになります。

読み合わせ

第138回の青山南さんのインタビューでも触れられていましたが、翻訳した文章を編集者さんと読み合わせます。これは絵本の場合に特有のことですが、私も拙訳書『なにか、わたしにできることは?』を翻訳した際に経験して驚きました。「こんなに一言一句確かめながら、細かく確認していくものなんだ!」と、はじめて知ったのです。文字数が少なくても、こうして何度も確認を積み重ねていくので、かなり時間がかかることになります。これは絵本に特有のことではありますが、通常の文章の場合にも、音読をして確認してみることをおすすめします。

タイトルの考案

翻訳家は原書といちばん深く関わっているわけですから、内容を把握している立場からタイトルも考えます。ただし、あくまでも一案であって、翻訳家に決定権があるわけではありません。編集者さんや営業の方など、出版社側で考えていく候補案のひとつとみなされます。タイトルも販売に影響を与えるものなので、出版社が最終的には決定します。

なお、各章ごとのタイトルについても翻訳家がアイデアを求められることがありますし、自ら提案していくこともあります。こちらのほうが、本のタイトルに比べて意見は反映されやすいでしょう。