体外受精という不妊治療が一般的に知られるようになった昨今。不妊症に悩むカップルは6〜10組に1組と言われる今、体外受精を受けている方は珍しくありません。この体外受精という治療について、山中智哉医師が詳しく解説する連載、7回目では排卵誘発法の使い分けについて説明します。
前回はERAについてお話ししました。いろいろとご相談を受けることもあるので、別の機会にまた改めて取り上げたいと思います。
今回は体外受精の話に戻って、排卵誘発のお話の続きをしていきます。
繰り返しになりますが、タイミング法や人工授精によって妊娠を目指す場合においても、排卵誘発剤を使用することはあります。この場合、多胎を予防するために、有効な卵胞が1〜2個になるようにコントロールする必要があります。
一方、体外受精において排卵誘発を行なう理由のひとつに、「卵胞を刺激することで複数の卵子を採取すること」があります。したがって、タイミング法や人工授精の場合と比較して、排卵誘発を強めに行なうことが多くなります。
排卵誘発方法にはいくつか種類があり、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、クロミッド法など、名前がつけられているものもあります。
それらを刺激の強さによって大きく分類すると、「しっかり誘発する」のか、「中程度に誘発する」のか、「軽く誘発する、あるいはまったく誘発しない」のか、大きく3つに分けられます。
■「妊娠する力」は一人ひとり違うもの
これらの誘発方法はどのように使い分けられるのでしょうか。ここで大切になるのは、治療を受ける女性の卵巣機能になります。
卵巣機能の評価は、ホルモン検査によってなされ、「月経開始日~5日目までの下垂体ホルモン(FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体化ホルモン)」と「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」が重要な指標となります。
「35歳を超えると妊孕力(にんようりょく:妊娠をする力)が下がってくる」ということがいわれています。これは間違いのないことではありますが、例えば、同じ40歳の方でも人によって妊孕力に差があります。年齢的な要素も大切ですが、それ以上に一人ひとりの卵巣機能の状態を正しく見ることが、排卵誘発を考える上でも重要なこととなります。
それでは、実際の排卵誘発について見ていきましょう。まず卵巣機能にまったく問題がない女性については、排卵誘発の強さに応じた反応を卵巣が示すため、排卵誘発の効果を予測することも比較的容易となります。
つまり、しっかり誘発すれば多数の卵胞が生じ、まったく誘発しなければ、自然に発生する1個の卵胞が生じます。刺激が中程度であれば、中程度の卵胞が期待できます。こういった女性の場合は、どのような排卵誘発方法でも選択できるということになります。
■知っておきたい「卵巣過剰刺激症候群」の話
問題となるのは、卵巣の働きに問題がある女性の排卵誘発をどうするかということ。一口に「卵巣の働きに問題がある」と言っても、いくつかのパターンがありますが、多くの場合、以下の2つのパターンに分けられます。
1. 卵巣機能自体には問題はないが、排卵がしにくい(排卵障害)
2. 卵巣機能自体が低下している状態
1の排卵障害の中で、特に「多嚢胞性卵巣症候群」の状態にある場合は、注意が必要です。卵巣内にすでに小卵胞が多数存在するため、排卵誘発剤に過敏に反応した際には、爆発的に多数の卵胞が刺激を受け、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」という症状を引き起こす危険性があります。
一方で、もともと卵巣が卵胞刺激ホルモンに対して反応しにくい一面もあるため、一定の排卵誘発剤を使用したにも関わらず、ごく数個の卵胞しかできない可能性もあります。つまり、「非常に多数の卵胞ができてしまう」か「卵胞がごく少数しかできない」のどちらかになりやすいということになります。
また、多数の卵胞ができてしまうと、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」の発症を恐れて、早めの採卵となり、多数の卵子が採取できたにも関わらず、未熟な卵子を多く含んだ状態になる可能性もあります。
このように、排卵誘発の目的は、「多数の卵胞を刺激し、複数の卵子を採取すること」であったにも関わらず、数が多くなりすぎると、それによる弊害もあるということを知っておいていただきたいと思います。
次回は、この「多嚢胞性卵巣症候群」に対する排卵誘発の実際の方法に触れながら、引き続き、排卵誘発についてお話ししていきます。
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