ひところ話題となった「睡眠負債」。日々の睡眠不足が借金のように積み重なると大病を招くという警告に、多くの人がわが身を振り返ったものでした。

 そしていま、「血糖負債」という言葉が注目を集めています。これは、血糖レベルを表す「HbA1c」(ヘモグロビン エーワンシー)という値が高めの状態が続いていることを指し、この状態が続くことで糖尿病をはじめさまざまな健康問題を引き起こすというのです。コロナ禍による生活習慣の変化もあって、そのリスクが高まっているそう。  そこで、この「血糖負債」について、原因や対策を解説しましょう。

●監修:一般社団法人 日本生活習慣病予防協会  生涯にわたる健康づくりについて啓発するため、多数の医師らが参加し、2000年に設立。生活習慣病に関する研究・情報発信を続けている。

健康診断のHbA1cの項目をチェックしてみて!

 血糖値が…糖尿病が…といわれても「まだ自分には関係ない」と思う女性は多いでしょう。でも、年が若くても糖尿病のリスクはあり、しかも、血糖負債は老け見えの一因だという研究結果もあるのです!血糖負債、他人事ではありません。

 血糖負債度は、健康診断の検査項目にもなっている「HbA1c」の値が指標になります。まずは、過去の健康診断結果を引っ張り出してみて! 「5.5%以下」なら異常なしですが、それより高い人は要注意です。

老け見えの原因は、高めの「血糖値・HbA1c」かも! 若い女性でもスリムでも糖尿病のリスクが
(画像=『女子SPA!』より引用)

採血検査▶︎HbA1c値   5.5%以下:異常なし 5.6~5.9%:軽度異常 6.0~6.4%:要経過観察 6.5%以上:要医療 (日本人間ドック学会 2021年判定区分表より)

HbA1cは、過去1~2か月の平均的な血糖レベル

 血糖について改めておさらいしておくと、食べものに含まれている糖質が分解されてブドウ糖となり、血液の中に入って血糖となります。この血液の中の糖(ブドウ糖)の量を示すのが「血糖値」。 「血糖値」は、誰でも食後は上がり、その後、運動などでエネルギーとして使われると下がります。また、食事だけでなくストレスなどにも影響を受け、1日の中で血糖値は上下しています。すなわち、「血糖値」は採血した“そのとき”の血糖の状態を示します。

 一方で、血糖負債度を判断する指標「HbA1c」は、過去1~2か月の平均的な血糖レベルを示します。たとえ検査結果の血糖値の値が低くても、HbA1cが高かったら、ここ数か月は、高血糖で血糖負債がたまっていた“状態”だったということになるのです。

老け見えの原因は、高めの「血糖値・HbA1c」かも! 若い女性でもスリムでも糖尿病のリスクが
(画像=『女子SPA!』より引用)
老け見えの原因は、高めの「血糖値・HbA1c」かも! 若い女性でもスリムでも糖尿病のリスクが
(画像=『女子SPA!』より引用)

血糖値・HbA1cが高いと「老け見え」する!?

 血糖負債がこわいのは、全身の血管にじわじわとダメージを与えること。「糖尿病」という診断が出るのは、細い血管も太い血管も傷んでしまい、怖い合併症を引き起こすまでのレベルに達したとき。血糖負債がたまりにたまって限界を超えて糖尿病になるのです。  でも、そこまでいかずとも、HbA1cが高い状態が続くと太い血管の老化が進みます。血管の老化とはつまり動脈硬化。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高まるのです。

 そして! 見過ごせないのが、血糖負債は見た目年齢にもかかわっているというのです。オランダのライデン大学(※1)が行った研究では、スッピンの顔写真602人分を別の60人に見せて「何歳だと思うか?」を聞いたところ……血糖値が高い人は年齢も上に見られる傾向があったのだとか。「血糖値が18mg/dL高くなるごとに、見た目の印象は0.4歳高くなる」という結果だったのです!

老け見えの原因は、高めの「血糖値・HbA1c」かも! 若い女性でもスリムでも糖尿病のリスクが
(画像=『女子SPA!』より引用)

 また、韓国のソウル大学(※2)は、にきびのある人を対象に血糖値との関係を調査。血糖値が上がりにくい食事を10週間続けたグループは、通常の食事をしていたグループに比べ、にきびの重症度を表す指標が3割ダウン。血糖値はにきびの改善や重症度に影響を与えていることがわかったのです。

 悩んでいた肌トラブルや老け顔、その原因は血糖負債にあるのかもしれませんよ。

※1 :Age (Dordr). 2013 Feb;35(1):189-95 ※2 :Acta Derm Venereol. 2012 May;92(3):241-6

痩せている若い女性に多い、血糖異常の“痩せメタボ”

 なるほど、血糖負債はおそろしい……と、1年前の健康診断の結果をひっぱり出して見てみたところ、私のHbA1cは5.1%。基準値(正常)は5.5%未満なのでひとまず安心ではあるけれど、思ったより高い印象です。

 ちなみに、私の検査時の身長は168.3センチで体重52.6キロ。肥満度を表すBMI値は18.6(kg/㎡)で、肥満とは無縁どころか、うっかりすると低体重というカラダなのです。痩せているから血糖値は心配ない、なんてことはないんですね……。

 それどころか、むしろ、「痩せている若い女性に血糖異常が多い」という驚きの研究結果があるそうなんです。

 それを明らかにしたのは、順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの研究グループ。2021年2月に発表したもので、痩せ型の女性と「耐糖能異常」の関係を調べた研究です。

 食後に高血糖になる耐糖能異常は、糖尿病予備軍とも言われています。調査の結果、標準体重の人(BMI平均20.3)に比べ、痩せている女性(BMI平均17.4)の耐糖能異常の割合はなんと約7倍! しかも、その確率はアメリカの肥満者(BMI平均30)より高かったのです。

 スリムな若い女性の中にも、メタボな中年と同様、糖尿病リスクを抱える人がいるんですね。

血糖負債解消のためには「ちゃんと食べる」「体を動かす」

 では、HbA1cを正常域にキープするためにはどうしたらいいのでしょうか?

 順天堂大学の研究グループは、痩せている若い女性の特徴として、「エネルギー摂取量が少ない」「身体活動量が低い」「筋肉量が少ない」という3点をあげています。そして、運動量も食べる量も少ない痩せた女性の中に、耐糖能異常がある人が一定数いるわけです。

 そういう人が、HbA1cを下げて血糖負債をためないようにするには、ちゃんと食べて、必要な栄養をとること、そして、運動をして筋肉を増やすことが必要だと指摘しています。

老け見えの原因は、高めの「血糖値・HbA1c」かも! 若い女性でもスリムでも糖尿病のリスクが
(画像=『女子SPA!』より引用)

たんぱく質 食事はバランスを大切にしながらも、筋肉量を増やすという意味では意識的にタンパク質をとることが重要です。厚生労働省の指標によると、18歳以上の女性が1日に必要なタンパク質の量は50g。これをクリアするには、お肉や魚のメインディッシュだけでは意外と難しいものです。卵、乳製品(ヨーグルトやチーズなど)、大豆製品(豆腐や味噌汁など)を積極的に食べることがキモになりそう。

 また、食べる順番も大切です。血糖値を上げやすい炭水化物を含むごはんやパンではなく、野菜やたんぱく質から食べることで血糖値の急上昇を防げます。たとえば、昼ごはんにコンビニおにぎり1個をパクつくなら、その前に、トマトジュースとヨーグルトを摂ってみる。そんな毎食での工夫が、血糖値対策には効いてくるのです。

 そして運動。体を動かしてこなかった人が、いきなり筋トレやハードな運動を課すと、早々に心が折れてしまいます。まずは、エレベーターではなく階段を使うとか、1駅分歩くとか、日常生活に運動を取り入れることから始めるとよいでしょう。ウォーキングはコロナ禍のリモートワーク生活の気分転換になるのではないでしょうか。

 借金なら一括返済して完全リセットできます。でも、血糖負債は一定レベルにまで達すると、どんなに頑張って血糖状態をコントロールしても、健康な状態に戻せなくなるそう。高いHbA1cを放置して血糖負債をためこみ続けないよう、今のうちから手を打っておきましょう。

<文/小山武蔵  監修/一般社団法人 日本生活習慣病予防協会>

提供・女子SPA!



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