人前で演技するのは、今でも恥ずかしい
――SABU監督と組まれていた1990年代後半から2000年代前半の頃と比べて、役者としてご自身の変化を感じる部分はありますか?
堤「結婚もして今は子どももいますが、役者としても人間としても、正直あまり変わったと思ってないんです。それに、自分が20代の頃にイメージしていた50代、60代の先輩たちとは、あまりにもかけ離れているというか(笑)。経験は積んでいるのだろうけど、自分が変わったと思えるところはなかなかないですね」
――俳優さんは満足ができない仕事だと思います。経験は積んでも、常に楽しい?
堤「この年齢になったからこその楽しみ方とか、関わり方というのが、きっとあると思うんです。そのあたり、まだまだ自分は楽しめるレベルまでは行っていないような気がするんですよね。人前で演技したりするのは、今でも恥ずかしいんです。なんでこんなことやっているんだろうと思ってしまったり、どこかでまだ恥ずかしいと思っているところもある。もっと堂々と芝居ができるようになれればとは思いますが」
今が役者としての過渡期かもしれない
――それでも続けている原動力は?
堤「やめられないのは、この仕事以外を知らないからです。“物語”はすごく好きですが、演じるのは、むしろだんだん難しくなってきている気がします。勢いやノリでやれていた若い頃とは違ってきましたね。僕らがやってきた演劇って、60年代70年代の安保闘争の流れがまだ残っている頃だったので、反発心とか反抗心といったものがエネルギーのベースにあったんです。
それが年月とともにどうしても薄れてくるなかで、何をエネルギーにして役者として舞台に立つことができるか……。そう考えると、いまが過渡期のようにも感じています。ひとつひとつの作品をより大切にしながら、作品のなかからエネルギーをもらっていこうと思っています」
――役者人生を歩んでくるなかで、特に影響を受けた人はいますか?
堤「演劇を始めた頃に出会ったデヴィッド・ルヴォーというイギリス人演出家です。基本となるものすべてを教えてくれました。『お客さんは、あなたを見にくるのではなくて、物語を観にくる。関係性から物語を汲み取っていく。セリフは自分をアピールするものではなく、関係性を見せるもの。あなたのファンにではなく、お芝居のファンのためにやってくれ』と言われました。そのころ、僕にファンなんていませんでしたけど(笑)。そうした部分をきっちり教われたことは、すごく良かったと思っています」