暴言だけじゃない、子を追い込む親たち
さらに最近は、父親が積極的に育児や教育に関わるようになったことで、夫婦で毒親化するケースもある。
「もちろん父親が進んで子育てをするのは素晴らしいことですが、夫婦ふたりがかりで厳しくしつけるようになると、子どもは逃げ場を失ってしまいます。もしも母親が子どもに厳しい場合は、父親は優しく、共感して味方になってあげるといいですね」(同)
一方、毒親という言葉が世間に浸透するにつれ「自分は絶対にそうはなるまい」と考える親も増えている。
しかし、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏によると、暴言や体罰を用いずとも、子どものメンタルに悪影響を及ぼすパターンもあるという。
「毒親というと感情的な暴言を吐く印象もあるため、論理的な言葉で子どもを諭そうとする親もいます。ただ、『どうして?』『約束したでしょ』などの言葉を用いて誘導することで、子どもがNOと言えない状況に追い込んでしまうこともあります。
親は往々にして、子どもにとって負担になるような約束や言いつけをしがち。圧倒的な力の差がある中で、親が正論を振りかざして叱り続けることが、子どもの心にダメージを与えてしまうのです」
「あなたのため」は“隠れ毒親”の常套句
たとえ攻撃性がなくとも、子どもにとっては毒となるパターンもある。それは「子どものため」という大義名分を掲げる親に多い。
一見すると愛情深いようで、実は毒をもった“隠れ毒親”は、表向きは子どもを心配しているまっとうな親に見える。しかし実際は、子どもの心よりも自分の気持ちを優先しているのが特徴だ。心理カウンセラーの諸富祥彦氏は次のように解説する。
「『あなたのために言っている』『あなたが心配だから』という言葉は、子どもの自由を奪う決まり文句です。例えば、親子でパン屋に行ったとして、そこで子どもが『カレーパンが食べたい』と言っても、隠れ毒親は『でもカレーパンは辛いから、あんパンにしようね!』と、子どもの意思を尊重せずに自分の希望を押しつけるのです。
ほかにも、『その服よりこっちの服のほうが似合う』『そのアニメよりこっちのアニメのほうがあなたのためになる』など、日常生活のあらゆる点で口を出し、すべて意のままに操ります」
こうした言葉で親の思うままに誘導されてきた子どもは、自分の意見や考えが持てなくなり、「どう答えると親は喜ぶのか」という物差しでしか判断ができなくなってしまうという。
「隠れ毒親の最たる特徴は、子どもの進路決定や結婚などの人生の一大イベントのときに現れます。進学先や結婚相手など大きな選択のときほど『あなたのために言うけど』と、口を挟んでくるのです」