2020年、日本の自殺者数は11年ぶりに上昇し、前年を上回る2万1081人になった(4.5%増)。男性は前年より23人減ったのに対して、女性は935人も増えて7026人が自ら命を絶った。
自殺防止の啓発活動として多くの言葉を綴ってきた私にとって、その数字は虚しさを覚える悲しいデータだった。
どうにかこの連鎖をストップさせたい。そのためにも、自分自身もギリギリ自殺を踏みとどまった立場として、「越えられない夜」と「越えられた夜」にどんな違いがあったのかを考察したかった。
孤独死の部屋を“ミニチュア化”する特殊清掃員の女性
そんなときに出会ったのが小島美羽さんである。遺品整理クリーンサービスに所属する、特殊清掃員で遺品整理人。彼女が取り扱っているのは、「越えられなかった夜」が存在した部屋たちだ。
孤独死。自殺、病気、殺人ーー。さまざまな理由のなか、その部屋で一人、息絶えた人間がいる。そんな事実が漂う部屋の後片付けをし、整理するのが、彼女の仕事だ。
そして同時に、小島さんはクリエイターでもある。自分が出会った孤独死のあった部屋たちをもとに、ミニチュア模型を製作して展示会を行ったり『時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』という書籍の出版も行った経歴がある。
故人が最後の瞬間に過ごした部屋に触れてきた彼女が思う、「その夜を救えたかもしれないストッパー」が知りたかった。そうして実現したのが、この対談だ。
前編「「きれいな自殺なんてない」死にそこねた私と、特殊清掃人が見たリアル<yuzuka×小島美羽>」では、私たちの考える自殺の現実についてを取り上げた。魂が抜け落ちた後、虫にたかられながら朽ち果てる遺体、なかったことにされる遺書。なにをどうとっても、自殺は決して美しいものではないということが伝わってくる内容だったと思う。
とりわけ自分が亡くなった後に残したメッセージを破棄される可能性を考えると、なんとも苦しい気持ちになった。「死んだら私の気持ちを分かってくれるかもしれない」という思いすら空振りになる可能性があるのだとしたら、自殺はあまりにも大きな代償を伴うギャンブルだ。
対談の後半では、遺された人たちに対する思いから、自殺をしないために身につけるべき考え方についてまでを話した。死を意識したことのある人、ない人。両方に読んでほしい。越えられなかった夜を過ごした主人を見送ったその部屋たちには、一体どんなメッセージが残されていたのか。
遺された人たちが、できたことはあったのか
yuzuka:DMにくる相談の中に、残された側の人たちもいます。どうすれば止められたんだろう、どうして気づけなかったんだろうって。だけどそれってすごく難しいことですよね……。
小島美羽さん(以下、小島):私も「前兆があったんじゃないか」って、よく言われますけど、まったくない方だってたくさんいると思いますから。自殺をした方には、昨日まで普通に会話をしていたのに……っていう方、すごく多いと思います。
yuzuka:そうですよね。反対に「死にたい死にたい」って何回も言われすぎて、まさか本当に死ぬわけがないと思っていたという方もいました。「死にたい」って、私はやっぱり人や状況によって重さが違うと思っていて。「しんどい」くらいの気持ちで「死にたい」を口にすることもあれば、本当に死にたいタイミングで口からこぼれることもある。それを見極めるのって、厳しいと思います。
小島:遺族の方もどうしたらよかったんだって、いつまでも自分を責めてしまうの、すごく苦しいですよね……。言葉から思いを悟るのもとても難しいことだと思っています。だからといって、常に電話して、おせっかいなおばさんみたいに根掘り葉掘り聞き続けるってのも違う気がするし。
yuzuka:答えのない問題ですよね。「とにかく関わって、相談にのってあげて」って、口で言うのは簡単なんですけど、めちゃくちゃ大変なことだと思うんです。実際、私のところにも自殺したいという方からたくさん連絡がくるんですけど、そのなかに、定期的にリストカットの画像とか、屋上の画像と一緒に「今から死にます」という連絡を送ってくる、ある女の子がいて……。
その子とは、かれこれ4年くらいずっとそんなやりとりがあるんです。返さないと余計に腕を切ってしまったり、精神状態が悪くなってしまう。緊急性が高いのでできるだけ対応しているのですが、やっぱり私にも自分の生活があるし、難しいなと感じることはあります。だから「話を聞いて寄り添ってあげて」っていうのも、ものすごく酷なことを求めているなとは思います。