累計40万部以上を記録した『妻のトリセツ』をはじめ、『夫のトリセツ』『娘のトリセツ』などのベストセラーを連発している『トリセツ』シリーズ。その著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さんは、自分の息子をどのように育ててきたのでしょうか。
『イラストですぐわかる! 息子のトリセツ』では、男性脳を知り尽くした著者が、「母も惚れるいい男」をつくるために実行してきた40の秘訣をビジュアルつきでわかりやすく解説。今回は同書より、そのエッセンスを一部ご紹介します。(以下、同書より抜粋・再構成)
「将来、彼にしてほしい口の利き方」で育てるしかない
私は、人工知能の研究開発者です。人工知能は、ヒトの脳の脳神経回路をコンピュータ上に模したシステムです。人間と同じように学習をし、人間と同じように未知の事態に何らかの対応をし、失敗もし、それを糧(かて)に賢くなります。私は、息子が生まれる3年前から人工知能の学習実験をし、息子が生まれた1991年には日本語対話型AI(ビジネスコンピュータでは世界初)を稼働させました。人工知能を育てつつ、息子を育てたのです。
そんな私は、息子がおなかにいたある日、ふと気づきました。人工知能は、入力しないと出力できない。人間だって同じじゃないだろうか。将来、息子に、優しいことばをもらいたい。だとしたら、優しいことばで育てるしかないのでは?
「なんでできないの!」「ぐずぐずしないで」「そんなこと言ってたら、置いてくわよ」
なんて言って育てたら、やがて、冷たいことばが返ってくるに違いない。だって、人工知能なら、明らかにそうだもの。私の子育てのテーマは、「母も惚れるいい男」に育てること。だとしたら、私が、「将来、彼にしてほしい口の利(き)き方」で育てるしかない。
私の子育ては、そんなふうに、「人工知能の側から振り返って、ヒトの脳を思う」ことから始まりました。その方法は、案外役に立ち、私は、今年30歳になる「母も惚れるいい男」を手に入れました。「母も惚れる男」のつくり方レシピ、リラックスしてお楽しみください。
「気づき」に出逢うまで待つ
あなたはどう思う?
4歳くらいになると、「これ何?」「なんで?」と質問攻めをしてくることがある。実験期の後に訪れる「質問期」である。この時期の質問には、やはり、できるだけ応えてやりたいものである。特に、「自らしゃべること」が苦手な男性脳は、やっとの思いで紡ぎ出した質問を拒絶されたら、ショックが大きい。答えられなくてもいい、応えてあげてほしい。受け止めて、疑問に共感してやってほしいのだ。
時間があれば、「あなたはどう思う?」と聞いてみるのも面白い。我が家の息子が、絵本の虹を見ながら、「虹はなぜ7色なの?」と尋ねてきたとき、私は「あなたはどう思う?」と聞いてみた。 すると彼は、「おいらはねぇ、神様に7つのものの見方があるからだと思うんだ」と、にっこり笑った。
結果の出ない堂々巡りであれ、(下記「Point」参照)好奇心に導かれて、考察を重ねることは、子どもの脳にとっては、戦略思考育成のチャンスでもある。あくまでも、好奇心に導かれて楽しく、がセンス向上の基本。課題を与えられてしぶしぶ、では脳の進化は緩慢(かんまん)になってしまう。
始まりは「気づき」の力から
「脳育」と称して、脳が好奇心を感じる前に、次々にアイテムを与えて刺激する幼児教育もあるようだが、私は、あまり賛成できない。アイテムそのものは、よくできていると思うが、周囲のさりげない風景の中から「本人の脳が、はっと気づいて注視する。質問を作り出す」が、やはり一番だからだ。おとなになって、事業開発しようと思ったら、「気づき」の力がなければ何も始まらない。思考力は、気づきの後に必要になるものだ。
【Point】堂々巡りでも思考力は育まれる
息子 「シマウマは、なんでしましまなの?」 母 「あなたはどう思う?」 息子 「しまが好きだから~」 母 「たしかにね、シマウマのメスは、しましまが好きで、しまがはっきりしたオスがモテるのかもね。そして、しまのはっきりした子が生まれる。進化の摂理よね。けど、なんで、 シマウマのメスは、しましまが好きなんだろう?」 息子 「カッコイイから~」 母 「だからぁ、何でカッコイイと思うんだろう?」 息子 「しまだから~」