不妊は加齢とともに増加することがわかっています。その原因のひとつとして、抗加齢医学の領域では、酸化ストレスの上昇との関連が指摘されているようです。抗酸化作用を高め、体をより健康な状態へと導くことの大切さについて、日本産科婦人科学会専門医の山中智哉さんが解説します。
(連載【産婦人科医が解説】は、本記事で最終回となります。)
人の寿命が延びるにつれ、抗加齢医学(アンチエイジング医学)にも注目が集まるようになりました。加齢のメカニズムが徐々に解明されるに従って、医学的な介入の余地があるとわかってきたことがその背景にあります。
まだ医学がそれほど発達していなかった時代から、不老不死を求める為政者がいました。現在は、「健康長寿」という言葉に表されるように、健康を保ちながら長生きすることが、抗加齢医学の目的のひとつとなっています。同時に、メタボリックシンドロームや成人病、がんなど、多くの疾患に加齢が関わっていることから、抗加齢医学の側面からそういった疾患の治療に有用なアプローチも考えられています。
それでは、不妊治療に対し、抗加齢医学はどのようなアプローチを取ることができるのでしょうか。
■卵子数の減少や卵巣機能の低下、加齢の影響は避けられない
前回、AMH(抗ミュラー管ホルモン)についてご説明したように、加齢に伴い卵巣内の卵子数は減少し、同時に、卵細胞が持つエネルギーも減少していくことがわかっています。
この卵子数の減少を劇的に食い止める方法は、現在のところまだありません。「ピルで排卵を抑制すれば卵子の減少を抑えることができる」という考え方もあります。たしかに理屈的にはそうともいえるかもしれませんが、10年間ピルを服用し続けた女性の閉経が10年遅くなることがないように、排卵を抑制している間も卵子の数は減少していくと考えられます。
また、10~20代にかけてピルを服用してきた方が30歳になって妊娠を考え、ピルを止めたところ生理が来ないため、当院を受診し、調べてみるとAMHが限りなくゼロに近く、卵巣機能も閉経に近い状態になっていた患者さんも診てきました。ピルによって月経が保たれているように見えてしまうことで、卵巣機能の低下に気付きにくくなっていたのです。
この方の場合は加齢が早く進んだというより、先天的に卵子の数が少ない、あるいは卵巣機能が早期に低下してしまう傾向を持っていたともいえますが、それでも卵巣機能が保たれていた時期もあったことを考えると、一般的にはまだ若いと考えられる年代においても、加齢の影響は大なり小なりあるものと考えられます。
■不妊に影響を及ぼす「酸化ストレス」
抗加齢医学を考える際に、「酸化ストレス(※1)」という言葉がキーワードのひとつになっています。
鉄が酸化するとさびるように、人の体も酸化ストレスにより細胞にさまざまな障害が生じ、それに伴い動脈硬化をはじめとする心血管系の病気などが引き起こされることがわかっています。
不妊の原因には子宮筋腫や卵管閉塞(らんかんへいそく)といった機能的な障害によるものもありますが、酸化ストレスの上昇や、抗酸化力の低下との関連も報告されています。
卵子数は前項で説明したように先天的な要因も関係しますが、喫煙などの外的な酸化ストレスも、その減少の原因となります。
■抗酸化力で体の状態をより良くすることもできる
食生活などの生活環境から、人は必ずいくらかは酸化ストレスを受けていますが、同時に、抗酸化力というそれに拮抗する力も備わっています。つまり、体を良い状態に保つためには、酸化ストレスを減らし、抗酸化力を増やすことが大切なのです。
また卵細胞が持つミトコンドリア(※2)内のエネルギーは、適度な運動や適切な食生活による酸化ストレスの軽減によって改善するとも知られています。適度な運動とは、ウォーキングやジョギングといった有酸素運動を中心に、軽負荷の無酸素運動(筋トレ)を組み合わせたもの。そして、毎日の食事で、野菜から摂れるビタミンやミネラル、動物性あるいは植物性タンパク質を積極的に摂取することで望ましい食生活に近づけます。
酸化ストレスや抗酸化力は、血液検査でそのマーカーを調べることで数値化できるため、現在の状態や、抗酸化サプリメントなどによる改善度合いも知ることができます。
抗酸化力のある代表的な栄養素のひとつにビタミンCがあげられます。それ以外に、赤ワインに含まれるレスベラトロール(※3)といった成分などもよく知られるようになり、アンチエイジング治療の領域で用いられています。
■不妊治療=体をより健康へと導くアプローチ
妊娠に対する加齢の影響を完全に排除するのは難しいことではありますが、加齢のメカニズムを知り、ネガティブな要素を軽減していくアプローチは、不妊治療を考える上で念頭に置いておく必要があります。
不妊治療においては、妊娠をすることだけでなく、体をより健康な状態に導いていくことも大切な目的であり、それは妊娠した後の妊娠合併症の予防にもつながっていくことだと考えています。
※1 通常、我々の生体内では活性酸素の産生と抗酸化防御機構のバランスが取れていますが、活性酸素の産生が過剰になり、抗酸化防御機構のバランスが崩れた状態を酸化ストレスといいます。(「活性酸素と酸化ストレス e-ヘルスネット」厚生労働省)
※2 ミトコンドリアとは、細胞内に存在する細胞内小器官。ATPの生成やアポトーシス(細胞死)において重要な働きを担っている。(「ミトコンドリア e-ヘルスネット」厚生労働省)
※3 レスベラトロールとは、ポリフェノールの一種であり、ビタミンCやEと同様に抗酸化作用を有することで知られる。(福井 浩二 著「レスベラトロールの非抗酸化作用について」2016年90巻 5-6号 p. 286-289、『ビタミン』)
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