浮気されたり、セフレと別れたり、好きな人に好きと言えなかったり。ギュッと胸を締め付けるような恋愛の一瞬を鮮やかに切り取り、若い女性たちから多くの共感と支持を得ている漫画家・にくまん子さん。
『恋煮込み愛つゆだく大盛り』(KADOKAWA)『泥の女通信』(太田出版)など、柔らかく可愛らしい絵柄で剥き出しの感情を描いた作品が多い。
8月12日に発売となった『いつも憂き世にこめのめし』では、同居する男女のなにげない日常や会話を描き、漫画家としての新たな奥行きを見せている。情緒(エモ)の使い手・にくまん子さんに、新刊についてお話を聞いた。
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“作品で人を驚かせ震えさせないといけない!”気持ちが初期は強かった
――『いつも憂き世にこめのめし』(以下『こめのめし』)は、今までの単行本化された作品とは少しテイストが違いますね。この作品を描き始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
にくまん子:漫画制作を始めたばかりの頃、私の作品は心をえぐるものじゃないと、人を驚かせ震えさせないといけない!みたいな(笑)そんな気持ちが強かったんですけど、魂を削る行為というか、続けていくうちにちょっと体力を消耗してしまって。 でも漫画の活動自体は続けたいから、今までとは違う角度で制作していけるテーマはないかなと考えた時に、描き始めたのが『こめのめし』という作品です。穏やかな気持ちで描けるし読めるものを目指していたところはあります。
――『こめのめし』はもともと同人誌で描かれていましたが、同人誌で描く時と商業誌で描く時とで違いはありますか?
にくまん子:同人誌の時は、「なんだこの粗さは!」って思われる場合もあるのかなと思うんですけど、絵の丁寧さよりも感情の速度や鮮度みたいなのを大事にしているので、優先するものが商業と同人だと変わってくるかなと。 言葉選びも、同人誌の方が若干詩的な表現でちょっと抽象的な部分があるんですが、商業では担当編集さんに見てもらうという段階があるので、もうちょっと言葉を噛み砕いたりとか、詩的な表現になったとしても「絵とセットになった時どうなるかな」と冷静に判断する部分が多いかもしれません。
「もしかして私のことなのかな」と思えるよう虚実の間を作る
――エピソードは実体験を元に描かれているのでしょうか?
にくまん子:一からオリジナルのエピソードもあったりしますが、どちらかというと、友達の話とか飲み屋で一人で飲んでる時隣に座ってたカップルのしょうもない話が面白くて、「これを書いてみたらどうなるのかなー」って妄想した結果が多いと思います。 他の作品にも共通していえることかもしれないんですけど、自分の実体験や友達の話がきっかけであっても、まるまる全部書いちゃうっていうことはあまりやりたくなくて。 あくまでも私や誰かの人生のifというか、「もしかしたらこうなっていたかもしれない」というのを自分が見てみたいというのもあるので。そういう虚実の間みたいなところをわざと作って、読んでる人が「もしかして私のことなのかな」と思えるようにしていきたいと思ってます。
――セリフのテンポがよく、会話の流れが自然で説明がなくても状況や心情が読者に伝わるのが、にくまん子さんの作品の大きな特徴ですが、登場人物のセリフや会話を考える時に気をつけていることはありますか?
にくまん子:「んー」とか「あー」とかそういう意味のない発声みたいのが日頃の会話であると思うんですけど、そういう一見無駄だなと思えても、実は親しい間柄の人とは意外とそういう単語だけで成り立ってるみたいなとこがあったり、逆にそういう意味ないやりとりの積み重ねで成り立ってる関係性もあったりするなと思って。
不必要そうだけど必要な言葉をセリフの中で足したり削ったりっていうのは、なるべく心がけています。 すぐ忘れてしまいそうな日常的にパッと耳に入る言葉とか音を、漫画に反映できたらいいなと思ってます。