でっち上げているのは誰か

 話を聞けば聞くほど、小林さんの受けている“攻撃”は、あまりにも理不尽だ。

 ただ、この離婚裁判を外から見れば、「夫にモラハラを受けて精神的に疲弊した妻が、夫のもとを逃げ出し、弁護士の助けを借りて離婚裁判を起こした」となる。

 それに、初美さんが極度の男性恐怖症で、父親や医師や弁護士(すべて男性)が作り上げた「被害者としてのストーリー」を吹き込まれて信じきってしまった……というなら、逆にこういう仮説も成り立つのではないか。

「初美さんは、小林さんという“男性”が作った“ストーリー”を信じ込まされている」という仮説が。

 つまりX弁護士、およびその支持者からすれば、夫である小林さんこそが、自分で働いたモラハラを隠蔽するために、ストーリーをでっち上げていることになる。

 なにより筆者はこの話を、小林さんの口からしか聞いていない。そして離婚話は往々にして、夫の言い分と妻の言い分が食い違うものである。

 とはいえ、だ。

 見せてもらった動画には、小林さんの首を絞めて暴走する初美さんの姿が、たしかに映っていた。あれが捏造だとはどうしても思えない。

 取材を始めて3時間以上が過ぎていたが、正直、迷っていた。小林さんの話を信じてよいものか。この話を書くべきか、ボツにすべきか。

わたしの人生を変えた人

 正直に言った。X弁護士の話が捏造だと言うなら、小林さんが“ストーリー”を捏造している可能性がないとは言い切れませんよね、と。

 小林さんはまったく動じることなく、微笑みながら言った。

「もちろんです。たしかにそうだ。判断するのは稲田さんですからね。じゃあ、これだけ見ていただけませんか。書いていただかなくても、構いませんから」

 小林さんは、ファイルされた大量の資料の中から、2枚の紙片を取り出した。1枚めは、初美さんが2年半前に父親に連れ出された際の置き手紙。

Vol.21-3 妻が弁護士らに洗脳された?“モラハラ妄想”で離婚を迫られた男性の告白
(画像=『女子SPA!』より引用)

写真はイメージです その文面は、今まで嫌な思いをさせてしまってごめんなさい、といった謝罪の言葉や、途中まで受けていた仕事をどう処理してほしいかという指示に続き、こんな言葉で結ばれていた。以下、原文ママで転載する。

<私は、あなたと一緒にいるには能力の劣った人間でしたが、あなたは、とても素敵な人だから、きっとすぐに一緒にいてくれる人が現れると思います。その人は必ず私より素敵で、仕事もできて、人間的に素晴らしい人です。 徹くんの人生が、この先幸福で、楽しく、良いものになると私は信じています。 あなたが日本一の編集者になることを信じています。

どうか、これからも人生を変える本を作り続けて下さい。 今までありがとうございました。身体にだけは気を付けてください。 あなたの幸せを祈っています>

 「人生を変える本」とは、小林さんが出版社時代につくり初美さんが感銘を受けた、統合失調症に関する本だ。この本をきっかけにふたりの人生は交錯し、すべてがはじまった。

 初美さんがこの置き手紙をして家を出てから2年半。小林さんは初美さんの部屋も荷物も、手を付けずにそのままにしてある。いつ戻ってきてもいいように。

「初美はあの日、洗濯物をたたんでいる途中のまま、出ていきました。つまり帰ってくる意思はあったんです」