出産退職と再就職のはざまで起きる大きな損失とは

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出産退職で失うのは、その後の生涯所得

出産退職による経済的な損失は、仕事をしていない期間中だけに留まりません。その先のキャリア、そして所得へと影響していきます。

例えば、前出のニュースリリース『出産退職の経済損失1.2兆円』では、女性が30歳で出産退職し40歳から59歳まで非正規雇用で働いた場合、正社員で働き続けた場合と比べた年収損失は、8307万円になると試算しています。

レポート『大学卒女性の働き方別生涯所得の推計』(久我尚子、ニッセイ基礎研究所編、2017年)の同様の推計では退職金なども含めて計算しているので、この差はさらに大きく、約2億円の損失という結果を算出しています。

育休利用はどのくらいの効果がある?

ニュースリリース『出産退職の経済損失1.2兆円』では、政府の保育政策が女性の就業継続にどれほどの効果があったのかを試算しました。保育政策の中でもより効果的だったのが、育休制度の整備です。

『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』(通称『育児・介護休業法』)は1992年4月に施行され、その後3回の改正を経て、取得要件や期間などがよりきめ細かく整備されてきました。

育休を利用して就業継続した女性の人数変化を算出した結果は次の通りです(その年の出生数による影響除外後)。

2002年:12.1万人 → 2007年:16.1万人 → 2017年:23.7万人

10年間で約1.5倍、15年間で約2.0倍の女性が、育休を使って仕事を続けられるようになってきています。

育児休業制度の内容と取得要件をおさらいしよう

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育休とはどのような制度か

『育児・介護休業法』は、育児や家族の介護を担う働き手が働きやすくなるよう、雇用者が休暇や労働時間、支援措置についてどのような取り組みをすべきか定めた法律です。

その大きな目的は、働き手が育児や介護と仕事を両立できるようにすること。働き手が退職せずに済むような制度を講じて雇用の継続を図り、また再就職しやすくすることを目的としています。両立支援は、働く人の福祉を増進すると同時に経済や社会の発展にもつながる、というのがこの法律の主旨です。

つまり、出産で退職するよりも育休を取って就業継続する方が、働き手にとっても雇用者にとっても社会にとってもwin-win-winとなることを前提としている制度であり、またそうあるべきなのです。

育休の内容と取得要件

育児休業は、1歳に満たない子供を育てる男女が、1人の子につき1回、ひとまとまりの連続した休暇を取ることができる制度です。休業できる期間は、子供の生まれた日から1歳の誕生日の前日までの間で、取得を申し出た期間です。原則としては、最長1年間ですが、事情によっては2年まで育休期間を延長することや、夫婦で取得することによって合算として延長することも可能です。

ちなみに、子供が生まれる前までの女性の休業は、出産予定日6週間前からの産前休業、出産翌日から8週間の産後休業として労働基準法で定められているもので、育児休業とはまた別の制度です。

育児休業の取得要件は、次の2点。

①同じ雇用主に継続して1年以上雇用されている。
②子供が1歳6カ月になる日までに労働契約の期間が満了すると決まっていない。

「継続して1年以上」については、実質的に雇用関係が続いていることを意味し、年末年始や週休日を空けて契約が結ばれていたり、前の契約終了時に次の契約が結ばれていたりするなどの場合は、「実質的に継続している」と見なされます。また、産後休業期間中に雇用継続期間が1年を超す場合も、①の要件を満たすことになります。