かつて一般的だった結婚を機とする「寿退社」は、もはや過去のものとなりました。それでも、妊娠出産を機に多くの女性が退職せざるを得ない状況は現在も続きます。

子育てをサポートしてくれる社会的リソース不足、夫の働き方や家事育児へのかかわり方……さまざまな要因があり、気軽に仕事の継続を呼び掛けることはできませんが、もし育休などの制度が使えるのであれば、ぜひ踏みとどまってほしいと思います。なぜなら、その影響は後々まで続くからです。

出産退職の顕在的・潜在的リスクと育休の効果を見ていきましょう。

1年間で約20万人が出産退職する

(写真=PR Image Factory/Shutterstock.com)

2017年の出産退職数は?

第一生命経済研究所が、次のようなデータを発表しています(ニュースリリース『出産退職の経済損失1.2兆円~退職20万人の就業継続は何が鍵になるか~』第一生命経済研究所、2018年)。こちらは『出生動向調査』(国立社会保障・人口問題研究所、2015年)を使った試算です。

これによると、2017年の1年間に出産した女性の総数は94.6万人。そのうち出産を機に退職した数は全体の21.1%、約20万人に上ります。出産前の雇用形態の内訳を計算すると、正社員が7.9万人(39.5%)、パート・派遣などが11.6万人(58.0%)、自営業や家族従業者などが0.5万人(2.5%)となります。

一方、出産後に退職せず就業継続した女性は全体の36.7%。そのうちの25.0%が育児休業制度を利用して継続、11.7%が育休を利用せず就業継続、という結果でした。

出産退職の理由は「両立困難」

では、高い出産退職率の背後には、どのような事情があるのでしょうか。厚生労働省『平成27年度 仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査』(2015年)において、働く人たちを対象に行ったモニター調査『労働者調査』によると、次のようなことが分かりました。

妊娠出産を機に退職した人の理由は、

第1位:家事・育児に専念するため、自発的に辞めた(正社員29.0%、非正社員41.2%)
第2位:仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた(正社員25.2%、非正社員17.1%)
第3位:解雇された、もしくは退職勧奨された(正社員15.7%、非正社員13.0%)

と続きます。さらに「両立の難しさで辞めた」の内容を探ると、最多回答となっているのは「勤務時間が合いそうもなかった、合わなかった」です。

「自発的に辞めた」人の中には、両立は無理と自分で判断して家事育児への専念を選んだ人も含まれるでしょうから、出産退職の背後には、仕事と育児の両立ができない家庭環境・職場環境が色濃くあると言ってよいでしょう。

また、産休・育休について、取得しなかった女性のうち非正社員では、約3割が「取得したかったけれどもできなかった」人たちです。

子供の年齢と再就職の現状

しかし、妊娠出産を機に退職した人たちのすべてが、そのまま専業主婦になる訳ではありません。厚生労働省『第7回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)の概況』(2018年)によると、2010年生まれの小学1年生の母親のうち、67.2%が仕事を持って働いています。出産からの経年変化を見てみましょう。

出産1年前:有職62.1%(常勤38.0%、パート・アルバイト19.3%)
出産半年後:有職35.6%(常勤25.2%、パート・アルバイト6.0%)
1歳6カ月:有職41.5%(常勤24.2%、パート・アルバイト12.5%)
2歳6カ月:有職45.7%(常勤23.6%、パート・アルバイト16.3%)
3歳6カ月:有職50.2%(常勤23.7%、パート・アルバイト19.9%)
4歳6カ月:有職57.6%(常勤24.8%、パート・アルバイト25.8%)
5歳6カ月:有職61.7%(常勤25.2%、パート・アルバイト29.5%)
小学1年生:有職67.2%(常勤26.0%、パート・アルバイト34.1%)

出産を機に職を離れた女性が子供の成長に応じて再就職していることが分かります。さらに、再就職では雇用形態がパートやアルバイトに移行していることも見て取れます。