(本記事は、小澤竹俊氏の著書『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』、アスコム、2018年8月27日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
どんな状況にあっても、あなたが価値のある人間だという事実は変わらない
みなさんは今までの人生の中で、次のような思いを抱いたことはありませんか?
「自分はダメな人間だ」
「自分には何の価値もない」
「自分の生き方は間違っていたのではないだろうか」
「自分の人生に意味があるのだろうか」
このように、自分自身や自分の人生を否定してしまった経験のある人は少なくないと思います。
物事がスムーズに進んでいるときや、心身が健康でエネルギーに満ちているときなら、自分を否定するような感情は起こりにくいかもしれませんが、何かに挫折したり大事なものを失ったり、病気になったりすると、人はどうしても弱気になり、つい自分を責めてしまいがちです。
しかし私は、どのような苦しみの中にあろうと、できればすべての人に自分自身や自分の人生を肯定してほしいと願っています。
なぜなら、それらを受け入れることこそが、人の心に安らぎを与え、人に真の幸せをもたらしてくれるからです。
私は緩和ケアの現場で、3000人以上の患者さんに関わらせていただきました。
人生の最終段階を迎えた患者さんの多くは、大きな苦しみを抱えています。
病気により、未来が突然閉ざされてしまったショック。
体の痛みや薬の副作用などによって受ける心身のダメージ。
「死」という得体の知れないものが迫ってくる恐怖や、周りの人から切り離され、自分だけがこの世から去らなければならないという孤独感。
体の自由がきかず、人の世話にならなければ、移動はもちろん、食事も入浴も、用を足すこともできない自分を「情けない」と思う気持ち。
「もっとああしておけばよかった」「あんなことをしなければよかった」といった後悔。
こうしたさまざまな感情に襲われ、患者さんの中には「残された時間が少なく、何もできない自分には価値がない」「このような状態で、生きている意味があるのか」「自分の人生は何だったのか」と考えてしまう方もいます。
たとえば、膵臓がんで余命わずかと宣告された、ある70代の男性の患者さんは、私と出会ったころ、「周りに迷惑をかけたくない」「楽に逝きたい」と口癖のように言っていました。
健康なとき、彼は登山が好きだったそうです。
また彼は、自分のことは自分でしないと気が済まない性格でもありました。
かつてどんな山にも、二本の足で元気に登っていた自分が、ベッドの上での生活、車いすを使った生活を余儀なくされ、ほかの人の助けがなければ、用を足すこともままならない。
彼は苦しみ、自分自身に対し「恥ずかしい」という気持ちさえ抱いていました。
しかし、在宅チームのスタッフと関わるうちに、彼に少しずつ変化が訪れました。
きっかけの一つとなったのは、「ディグニティセラピー」です。
ディグニティセラピーとは「人生において最も輝いていたのはいつごろで、そのときあなたは何をしていましたか?」といった人生の振り返りを通して、患者さんに誇りを取り戻していただき、ご自身が果たしてきた役割を再確認していただくというものです。
さらにめぐみ在宅クリニックでは、スタッフが、患者さんの答えをもとに、患者さんから大切な人たちへのメッセージを手紙にまとめるお手伝いをしています。
人生で学んだ教訓や思いを大切な人たちに伝えることで、患者さんに心の安らぎを得ていただくこと、患者さんの思いを、周りの方々の今後の人生の支えにしていただくことが、その大きな目的です。
この患者さんがご家族に遺された手紙には、次のように記されていました。
「私の人生の中でもっとも重要だと思っている出来事は、お母さんと出会ったこと、そして二人の子どもたちが生まれたことです。30代で転職したとき、生活するのが精いっぱいで苦しい時期ではあったけれど、家族がいてくれたから楽しかった。また、サラリーマンとしての満足感はあるし、会社勤めを通して、社会に対する役割を果たすことができたと思っています」
ディグニティセラピーを通して、あらためて自分が人生で味わった喜び、果たしてきた役割に気づき、自尊感情(自分を大切だと思える感情)や自己肯定感(自分の存在を認める感情)が高まったためでしょう。
彼は今の自分を受け入れ、以前よりもずっと穏やかな表情で、日々を過ごすようになりました。
人が生きるうえで、自分の考えや行動を反省し、必要に応じて改善することは、もちろんとても大事です。
それは、将来をより良くし、より輝かせることにつながるからです。
しかし、反省し改善することと、自分自身や自分の人生をやみくもに否定することは大きく異なります。
「自分には価値がない」「自分の人生には意味がない」などと考えることは、自分で自分の将来を奪うことでしかありません。
いくつになっても、どんな状況にあっても、かけがえのない自分、かけがえのない自分の人生を肯定し、受け入れる。
それは、人生最後の瞬間まで幸せに生ききるうえで必要不可欠なことだと、私は思います。
小澤 竹俊(おざわ・たけとし)
1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に勤務、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3000人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書『今日が人生最後の日だと思っていきなさい』は25万部のベストセラー。
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