女性の転機③:不妊退職

(写真=Tero Vesalainen/Shutterstock.com)

不妊治療で直面する仕事との両立困難

子供を持ちたいと不妊治療を開始したとき、ここでまた直面してしまうのが仕事と不妊治療の両立困難です。不妊治療の当事者を支援するNPO法人Fineは、2017年に「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2」を実施し、その実態を明らかにしました。

それによると、「仕事をしながら不妊治療を経験したことがある」と答えた5127人のうち「仕事と治療の両立が難しいと感じたことがある」人は、実に95.6%に上っています(『不妊白書2018』NPO法人Fine)。

両立が困難になる理由

両立が困難になる主な理由は、急な通院や頻繁な通院、生理周期に合わせた通院が必要となるため、仕事のスケジュール調整が難しいことです。予定に支障をきたした経験のある人は89.4%に上り、両立困難となって40.8%の人が働き方を変えています。

働き方を変えた人のうち約半数は退職、21.4%が転職。望んで働き方を変えたわけではなく、「これ以上は両立できなかった、限界だった」と語る人が7割です。

その年齢は35~39歳が最も多く、続いて30~34歳とちょうどキャリアの構築時期にある女性がそのキャリアを断念せざるを得ない状況が浮かび上がります。

プレ・マタニティハラスメント

同白書では「プレ・マタニティハラスメント」とも言うべき実態の存在も指摘しています。これは同法人が提唱している言葉で、妊活や不妊治療を行っている人に対する意識下・無意識下を問わない職場のハラスメント行為のこと。周囲に不妊治療や不妊に対する正しい理解、知識が少ないため、治療の継続に必要なサポートが得られない状況が浮かび上がります。

不妊治療を理由とする仕事の調整が認められなかったり、仕事と治療の二者択一や退職を迫られたり、不妊治療を受けること自体を否定されたりといった体験談。不妊治療やそれによって生まれる子供への偏見などから不妊治療のことを言い出せなくなるつらさが、当事者たちから吐露されているのです。

女性のキャリア継続のために必要なこととは?

(写真=Kaspars Grinvalds/Shutterstock.com)

妻も夫も多様に働ける労働環境の重要性

ここまで見てきた3つの転機、仕事の継続が難しくなる共通の壁は「家庭と仕事のせめぎ合い」です。出産や育児で家庭に責任を抱えるとき、会社から命じられた居住地移動に無理が生じるとき、子供を持ちたいために変則的なスケジュールを迫られるとき……。働き方を柔軟に動かせないために、結局、仕事自体を断念せざるを得なくなるのです。

前出の論文『夫の家事・育児参加と妻の就業決定』では、夫の働き方を多様化し家事育児への参加を増やすと妻の就業確率が8.8~13.0%アップすると試算しています。『不妊白書2018』も、柔軟な就業時間制度や休暇・休業制度、再雇用制度などのサポートを求める当事者たちの声を伝えています。

柔軟な働き方の制度とそれを妨げない職場環境があれば、仕事をあきらめずに済む人が大勢いるのではないでしょうか。