日本に住んでいる人は、20歳になると国民年金保険料を支払う義務が発生します。しかし、20歳というとまだ学生で収入がない人も多いはず。実は、親が子どもの年金保険料を払うことで、親の税金が安くなることはご存知でしょうか。今回はその仕組みをご紹介します。

家族の年金保険料を払うと所得控除の対象になる

会社員であれば会社から給料をもらいますが、年収が同じであれば税金も同じになるかといえば、そうではありません。税金は、それぞれの人の個別の事情によって変わります。その税金の額の調整を行うのが、「所得控除」という制度です。

例えば、収入が少ない配偶者がいる人はその分生活費がかかるため、「配偶者控除」という所得控除を受けられますし、生命保険料は将来のために必要な支出なので「生命保険料控除」という所得控除を受けることができます。

税金は、年収からこれらの所得控除を引いた金額(=課税所得)にかかるので、所得控除の額が大きくなればなるほど、税金も少なくなるというわけです。

国民年金や厚生年金の保険料は、「社会保険料控除」という「所得控除」の対象になりますが、実はこの保険料は、自分の保険料以外に、配偶者や子どもなど家族の分を払った時も対象になります。

子どもの年金保険料を払うとどれぐらい節税になる?

子どもの年金保険料を払うと、どれぐらい税金が安くなるのでしょうか。ここでは年収500万円のAさんを例にシミュレーションしてみましょう。

<Aさんの条件>
・年収500万円
・妻(扶養でない)、子(20歳)
・所得から引かれる控除の合計268万円

Aさんの課税所得は、年収の500万円から各種控除の合計268万円を引いた232万円です。課税所得232万円にかかる所得税は、表1から、
232万円×10%-9万7,500円=13万4,500円

になります。

表1. 所得税の金額の計算(課税所得330万円未満)

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円から194万9,000円まで 5% 0円
195万円から329万9,000円まで 10% 9万7,500円

次に、Aさんが子どもの国民年金保険料金を払った場合を考えてみます。2021年度の国民年金保険料は、月額1万6,610円なので年額19万9,320円です。

この年金保険料がAさんの所得控除にプラスされるので、Aさんの所得から引かれる控除の合計は、268万円+19万9,320=287万9,320円になります。

結果、Aさんの課税所得は500万円-287万9,320円≒212万円(1,000円未満切り捨て)に減り、所得税は同じく表1から、
212万×10%-9万7,500円=11万4,500円

となりました。

子どもの国民年金保険料を払うことで、Aさんの所得税は2万円軽減されることになります。

また、Aさんが払う税金は所得税の他に、住民税もあります。住民税は所得税とは少し計算方法が変わりますが、住民税の税率を10%とすると、所得税と同じく2万円程度税金が安くなるので、合計で約4万円の節税に繋がります。

どこまでが控除の対象になる?

では、子どもの年金保険料を払った場合、どこまでが自分の控除になるのか、Q&A形式でご紹介します。

Q1. 子どもが過去に払っていなかった保険料を今年親が払った場合、控除の対象になりますか?
A. 本年度中に払った保険料であれば、過去の年分のものでも社会料保険料控除の対象になります。

Q2. 翌年3月までの1年分の保険料を支払った場合(前納)、今年分の社会保険料控除の対象になりますか?
A. 前納した期間が1年以内のものについては、本年分の社会保険料控除の対象になります。

Q3. 生計を一にしていた子どもが6月に他県に引っ越し、生計が別になりました。その後も保険料は親が払っていますが、社会保険料控除の対象になりますか。
A. 親の社会保険料控除に含められるのは、生計を一にしている期間です。したがってこの場合、1月から5月までの分が対象になります。

子どもの年金を払って節税に活かそう

子どもが学生の場合、国民年金には学生の間は保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」もありますが、あくまで猶予なので、年金を増やすには後から追納する必要があります。家計に余裕がある場合、親が子どもの保険料を払うことで、親の節税に生かすことも検討してみましょう。

文・
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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