かけられる時間と情熱によって取れる手法が決まる
僕の現在の主な投資手法は、小型の成長株がその頭角を現し始める初動を捉えて集中的に投資をするというものです。これをやるには、普通の人があまり見ていないような小さな株を常にウォッチしながら、世の中の次のトレンドはなんだろうかということを考え続ける必要があります。小型の株は特定の製品やサービスに特化していることが多いだけに、そこに時代の風が吹けば業績や評価が一変する可能性を秘めているからです。
時代の風とは、たとえば震災後のエネルギー関連やLEDなどの省エネであり、コンピューターの世界ではクラウドやIoT(Internet of Thingsの略。あらゆるモノがインターネットにつながっていく技術のトレンドのこと。)であり、最近であれば自動車の自動運転システムやマイナンバー(社会保障・税など行政に利用するため、国が個人や法人に固定された番号を付与する仕組み。)などです。より大きな視点で捉えるならば、21世紀に始まったインターネット革命は今なお吹き続けている時代の風といえるかもしれません。そうした大なり小なりの世の中の変化を予測し、銘柄という形に落としこんで先取りするのが成長株投資の基本です。
これをやるにはいくら時間があっても足りません。学校の宿題のように、今日はここからここまでやればいいというものがなく、その気になれば365日24時間ずっと取り組むこと、考えることがあり続けます。なので、このやり方は世の中の行く末や企業の盛衰について考えることがそもそも好きで、そうしたことに多くの時間を費やすことを厭わない人にしかできない可能性があります。
どのようにしたらそんな人間になれるのかは僕にもわかりません。僕の会社に今年入った新入社員は、新卒で入った会社から入社前に与えられた教材に、コーポレートファイナンスについて学ぶものがあり、そこから企業価値などについて関心を持つようになって株を始めたそうです。今では朝から晩まで会社四季報を読んでいても飽きない株オタクぶりを見せていて、その意味では外部から与えようと思ってもできないとてつもない素質を持っているといえます。
一方で、東大の株サークルでプロのアナリストがやるような堅くて緻密な企業価値評価の練習を大型株相手にやっていた学生の子が、いつの間にか値動きの激しい人気の新興株に積極的に投資して大きなリターンを上げていたという事例もあります。
このように、当初の興味関心から変遷していくパターンもあり得るということでしょう。
それはともかく、もし僕と同じようなやり方をするのであれば、それなりの時間と情熱を注ぐことを覚悟しなければならないと思います。それも、数年かけて収穫期に入るぐらいの時間感覚が必要です。
では、僕が数年に及ぶ苦行のような体験をしてきたのかというと、そんなことは全くありません。僕は単に、元から関心のあった企業業績に関する研究や分析を、投資で勝つためにより深く行っただけであって、その作業自体はずっと楽しんでやって来ました。先ほどの四季報を読み続けている新入社員にしてもそうですが、それが「向いている」ということなのだと思います。
時間も情熱もかけられない人が取るべき手法とは
そういう地道な作業は向いていない、かといって値動きを読んでトレードで勝つほどのセンスもなさそうだという人はどうすればいいのでしょうか。
答えは明瞭で、投資で大きく儲けることは諦めた方がいいです。自分に合ったやり方が見つかっていないのに、儲けたいという願望ありきで投資を続けてしまうと、儲けるどころか損を重ねるばかりで大変危険です。
冷酷かもしれませんが、投資に向いていない性格の人というのは現実に存在すると思います。ただ、そういう人はスポーツやアートの分野に向いているかもしれないし、起業やビジネスで才覚を発揮するかもしれません。たまたま投資に向いていなかったというだけで、他の分野に目を向ければいいことです。
それでもどうにかして投資で勝ちたいという人には、次の3つの選択肢が考えられます。
1 あまり適性がないことを自覚して、無理のないリターンを上げる手法を磨く
2 信頼できるプロフェッショナルを見つけ、自分のかわりに運用してもらう
3 投資で勝つために自分自身を殺し、勝てる性格に少しでも近づける
1は、大勝ちはできないが手堅くて汎用性の高い手法を取り揃え、それを効果的に使い分けていくというものです。自分でやっていないのであまり適当なことはいえないのですが、企業の純資産価値に着目したバリュー投資や、配当利回りを基準とした銘柄選択、普段はキャッシュを厚く持っておいて相場が大きく下げた時にだけ出動するやり方など、方法はいろいろあると思います。
2は、端的にいえば投資信託を買うやり方です。これについては多くの専門書が出ているので、敢えてここで解説はしません。
3は、一番きついやり方です。なぜ多くの人が投資で負けてしまうのかというと、頭では正しいと理解していることをそのとおりに実行することがとても難しいからです。値動きが弱くとても上る見込みがなさそうなのに、損を確定させたくないからと含み損のまま塩漬けにしてしまうのがその典型です。理屈としてわかっていることと、それを実践できることには大きな違いがあり、これを埋めるのは容易ではないのです。
ところが、トレードに向いている人はそこにためらいがありません。下がると思えば売る。損切りした株でも、また上がると思えば躊躇なく売値より高いところで買う。普通の人が「心理的」にやりにくいようなことを「合理的」に処理していけるのが、トレード適性の高い人です。
反対に、長期投資においては短期的には弱々しく見える値動きでも、自分が考える将来価値との差にギャップがあると思えばむしろ買い増していく勇気も必要になります。これは、弱ければ売って、強ければ買えばいいという合理的な考え方ができるトレード派の人とは相容れない感覚でしょう。
自分に向いていないと思っても、目指すリターンを上げるためにはその手法が必要なのだとなれば、自分自身を変革していく努力が必要になります。長期間投資をやっていれば必ずどこかで壁にぶつかるので、専業投資家になるならこの覚悟は必要不可欠といえるかもしれません。
諦めずに続けることが何よりも大事
これまでお伝えしてきたように、自分にとって最適なやり方を見つけ出すだけでも数年の時間を要する場合があります。さらにそこから、その手法を磨き上げて芽を出すまでにまた長い時間がかかるので、途中で投げ出してしまいたくなることもあるかもしれません。
それでも、少しでもこの世界に興味関心を抱いて入ってきたのなら、諦めずに投資は続けて下さい。なにせ、人生はとても長いのです。おそらく僕達が生きている間ぐらいは、株式市場がこの世界から消えて無くなることはないと思います。
その間に、いろいろなことが起きるでしょう。僕が株をやって来たこの10年の間だけでも、オンライントレードブームがあり、ライブドアショックがあり、サブプライム問題とリーマン・ショックがあり、東日本大震災が起きて、欧州債務危機に揺れたと思ったら、アベノミクスと金融緩和でもう見られないと思っていた日経平均2万円を目にすることになったのです。
さらに10年時計の針を巻き戻せばITバブル(1990年代後半から米国を中心として起こったIT 企業株を中心としたバブル。日本では2000年前後に株価が上昇。)があり、その10年前にはバブル崩壊がありました。この間、たった30年ほどの出来事です。僕はまだ32歳ですから、これと同じかそれ以上の時間、これからも株式市場を見ていくことになると思います。それを考えれば、いつどこにどんな機会が待っているか、あるいは投資と向き合わざるを得なくなる必要性に迫られるかわかりません。
そうであれば、出会いは早い方がいいし、一度始めたものは細々とでも続けて蓄積していった方がいいと思うのです。それに、投資で身につけた知識や考え方が仕事などで思わぬ形で役立つこともあるかもしれません。
少なくとも、今日この時に株式投資に関心を持ち、何かの縁でこの文章を読んで下さっている時点で、まだこの世界に出会っていない人よりも何歩も先んじている。そのことは自信を持っていえると僕は思います。
片山晃(かたやま・あきら)
ペンネーム:五月(ごがつ)。シリウスパートナーズCEO。専門学校中退後の4年間をネットゲーム廃人として過ごした後、22歳で株式投資に出 会い、投資活動を開始。2005年5月からの7年半で、65万円の投資額を12億円 まで増やした。2013年には運用会社レオス・キャピタルワークスに転じて機関投資家 業務に従事。2014年、ベンチャー投資を行うシリウスパートナーズを設立して再独立。 複数の上場企業に大株主として名を連ね、本格的な長期投資を実践している。現在の運用 総額は25億円。
提供・ZUU online
【こちらの記事も読まれています】
>老後資金3000万を準備した夫婦に待っていた悲劇
>41歳貯金ゼロで結婚…金銭感覚の狂ったエリート会社員の末路
>年金未納を続けた人の悲惨な末路 当てはまる人は要注意
>住宅ローンの完済は79歳。年金生活に入っても住宅ローンか゛残る夫婦の末路
>退職金3000万円なのに老後破綻まっしぐら…生活レベルを落とせなかった老夫婦の末路