アルバイトで貯めた65万円をわずか7年半で25億円に膨らませた個人投資家片山晃氏の手法を紹介する。
これから株式投資をはじめたいが、どうしたらうまくいくか。すでに株式投資をはじめているものの、何かいい方法はないか。株式投資に「勝つ」ことを意識すればするほど、「絶対的」「普遍的」な投資手法を追い求めるものである。しかし、著名な投資家の投資手法をみると、それは千差万別。逆にいえば、あなたが株式投資で「勝つ」ためには、あなたにとって最適な投資方法を確立することがキーとなる。
(本記事は、片山晃氏・小松原周の共書『勝つ投資 負けない投資』=株式会社クロスメディア・パブリッシング/インプレス、2015年5月21日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
右も左もわからなかったデイトレ時代
僕のことを上手いトレーダーだと思って下さっている方もいらっしゃるようですが、実は全くそんなことはありません。断言しますが、僕はトレーダーとしては良くて二流、下手をすれば三流です。そんな腕でも勝てることもあるので、チャンスには積極果敢にトレードをしていますが、それだけに絞ってやっていけるとは到底思っていません。
しかし、株を始めた当初は何もわからないままにデイトレードをやっていました。2005年といえばライブドアショックが起こる1年前で、オンライントレードブームも佳境に入ってきた頃。猫も杓子も株の特集を組んでいて、カリスマデイトレーダーが誌面を賑わしていた時代です。そんな時に株を始めたら、自然とそうしたスタイルに流れてしまうのは当然の成り行きでした。
デイトレはその名のとおり、その日のうちに取引を終える短期のトレードで、オーバーナイト(持ち越し)のリスクを取らずに済むこと、成果が目に見える形で確認できることがメリットといえます。
ただその分、一度のトレードで取れる値幅が小さく、コツコツと儲けを積み上げるようなやり方になること、そもそも日中ザラ場(取引時間)に張り付いていなければならないということがデメリットになります。しかし、僕が始めた2005年前後や今のアベノミクス相場のような相場の好調時には、「大きく儲けにくい」というデメリットが一時的に覆い隠されることになります。
それはなぜかというと、後から後から新規参入者がやって来て、相場自体に新しいマネーが入ってくるからです。こうした状況のことを、「パイが大きくなる」と良くいいますね。この状態では、未熟だけどお金は持っている人たち、すなわち上手い人から見た「カモ」が次々に現れるので、上級者は先行した優位性を武器にどんどん勝っていくことができます。
ですが、新規流入が止まって安定期に入ると、今あるパイの取り合いになるのでそれまでほど楽に勝つことはできなくなります。そして相場の下落時には資金流出によってパイが小さくなっていくので、上手い人でも勝てなくなる冬の時代がやってくることになるのです。
日本の新興市場に長い冬をもたらしたライブドアショックが起きたのは2006年の1月でしたが、日経平均株価自体は2007年の夏まで上昇が続きました。前回の相場では、そこまでがパイが大きくなっていた状態といえます。
この時までは、僕の資産も順調に増えていました。
2006年末に仕事を辞めて専業投資家になった時は資産が200万円でしたが、2007年の10月には1,000万円の節目を突破していました。わずか1年足らずで5倍ですから驚異的なパフォーマンスといっていいでしょう。
でも、この時の僕はまだ確固たる投資手法を持っておらず、チャートの見方もろくにわかっていないレベルでした。なんとなく上がりそうだから買って、なんとなく下がりそうだから売る。パイが広がっている時期には、本当にそんなトレードでも資産が増えてしまうことがあるのです。
そして、現実にこれだけ資産が増えているのだから自分はトレードの才能があるに違いないと錯覚してしまうわけです。
デイトレーダーとしての限界
日経平均が天井をつけたのは2007年の夏で、リーマン・ショックが起こるまでにはまだ1年以上の時間がありました。株価は下降線を辿っていたとはいえ、売買代金の水準は依然として高く、市場には多くのチャンスがあるように見えました。
ところがその期間、僕の資産は全く増えていかなかったのです。2007年10月に1,000万円を突破した資産は、一時的に1,300万円まで増加したものの、2008年8月には再び1,000万円を割り込むところまで戻っていました。流石に1年間やって資産が横ばいなのはまずい……そういう焦りと危機感が募っていた頃に、ある出来事が起こります。
それは、ネットで知り合った投資家たちとのオフ会(ネット上の各コミュニティの主催者またはメンバー有志により企画立案・開催されるオフラインの会。)の会話での出来事でした。
当時の人気銘柄のひとつにネットエイジ(現社名ユナイテッド)という株があって、個人投資家の注目度が高く頻繁に値動きを見せていました。そのため僕もよく参戦したのですが、いつも負け、しかも大損といえるレベルでの大敗を繰り返していたのです。
だから、僕はオフ会の参加者に何気なく「ネットエイジってほんと難しいですよね」と言ったのですが、なんとその人はネットエイジで負けたことがなく、むしろ得意にしている銘柄だと言うのです。自分がどうやっても勝てないと思っていた値動きを簡単だと言い切る人を目の前にして、僕は頭が混乱しました。家に帰ってからも、ずっとそのことを考えていました。そしてある結論に至りました。
僕はデイトレーダーとしては一流にはなれない―……。
よくよく考えてみると、ネットエイジに限らず、上手い個人投資家がよく手がけていた銘柄ではことごとく負けた記憶しかありませんでした。誰でも勝てるパイの拡大期が終わった後、気がつくといつの間にか僕がカモになっていたのです。
そのことに気づいた途端、手持ちの1,000万円という資産がとてつもなく心細い数字に見えてきて、「このままではいけない、何とかして勝てるようにならなければ」との思いを強くし始めた頃に、リーマン・ショックは起こりました。
割安株投資に活路を見出す
日経平均があっという間に半分になり、まるで焼け野原のようになった株式市場を見て、僕は自分の人生の行く末を初めて案じました。なんだかんだいっても景気はいいし、株でダメなら普通に働けばいいと楽観的に考えていたところがあったのですが、突然やって来た大不況によって真面目に働いていた多くの人が職を失った光景を見て、もう自分には株以外の道はないのだと覚悟を決めました。
そうはいっても、勝つための方策がまるで見つかりません。リーマン・ショック前でも勝てなかったのに、こんなことが起きた後に勝てるはずもない。スキャルピングという秒単位の超短期トレードを繰り返して糊口をしのぎながら、この後市場がどうなっていくのかということを毎日考えました。
明らかだったのは、以前のような売買代金が戻ってくるには相当の時間がかかるだろうということでした。トレーダーにとっては流動性の多寡が死活問題になりますが、市場が死んだようになってしまった今、新しい資金が入ってくる見込みはほとんどありません。それが少なくとも数年は続くだろうという前提で、僕は今後の戦い方を練りました。
そうして行き着いたのが、割安株への長期投資です。思えば単純なことだったのですが、1年前にはあれほど高かった株が信じられないような安さになっていました。
「もしかすると、この中に今買っておけば儲かる株があるかもしれない」。もともと企業業績には関心があり、会社四季報や日経新聞を読んでいた僕は、より一層この部分に力を入れることにしました。
今でもやっているすべての適時開示情報(上場企業によって提供される、四半期決算や業績予想などの重要な会社情報のことをさす。)に目を通すという習慣は、この頃から始まったような気がします。こうして、今やっている小型成長株への長期投資につながる、新たな投資手法への取り組みがスタートしたのです。
どんなやり方が向いているかは人それぞれ
投資には様々なやり方があり、どれを選ぶべきかは一概に論じることができません。ですから、これから本書を通じて触れる具体的なやり方や考え方については、「たまたま片山晃という人間が上手く行ったやり方」であるということを忘れずに受け止めるようにしてもらいたいと思います。
投資はその人の性格が物凄く出ます。また、育ってきた環境や今の家庭の状況などのバックグラウンドによって、リスクに対する考え方も大きく異なります。なので、自分にはどんなやり方が向いているかというのは自身で見つけるしかありません。
ではどのようにして自分に合ったやり方を見つければ良いのかということですが、特に難しいことはありません。いろいろなやり方に実際に触れてみて、それを実践している先駆者のブログや書籍から考え方を学び、しっくり来るまで試してみるのです。僕もこれが多分自分のやり方なのだろうなと自覚できるようになるまで5年はかかりました。
良くないのは、大きく儲けたいとかラクして稼ぎたいという発想からやり方を決めることです。著名トレーダーにBNFさん(推定資産300 億円超ともいわれる個人投資家。「ジェイコム男」として一時期メディアなどにも登場していた。)という、30代にして数百億円もの資産を稼ぎだした生きる伝説となっている方がいますが、僕は彼のやり方を決して真似しようとは思いません。やっても自分にできるわけがないことを、これまでの経験でよく知っているからです。僕もその全貌を知っているわけではないですが、彼は本当にトレードに関して天賦の才を持っているように思います。
逆に、僕のように企業業績をつぶさに見ていくような作業はどうしても好きになれないけれども、BNFさんのように独特の感覚で値動きを捉えるトレードの方が性に合っているという人ももちろんいると思います。そこは、それぞれが考えることでしょう。
ただ、一般に株を始める時に参考にするであろう書店の株コーナーやマネー誌に出てくるやり方は、どうしてもその時々の売れ筋に沿ったものになるため、内容が画一的になりがちで、本当に自分に合ったやり方に辿りつけていないという人もいるのではないかと思います。ですから、そこはネットなどを使って能動的に、世の中にはどんなタイプの投資家が存在するのかをよく研究してみることをお勧めします。