金融において不勉強は罪である

2015年の暮れからフィンテックがバズワード化し、メディアを含めてお祭り状態である。そのおかげで金融システムの技術革新に関する情報を各メディアが収集し、整理し、発信してくれるようになった。長年、金融に携わる人間として非常に喜ばしいことだと思う。

なにより旧来の金融関係者以外の知見やリソースがフィンテックに集まっていることが嬉しい。金融サービスに興味を持つ学生も増えていることだろう。起業家も増え、金融とは無縁だったクリエイターやエンジニアによる金融システムの変革も期待されている。

しかし、先ほどの問題が肌感覚でわかるようになるまでは、表現はきついが、フィンテックも金融サービスも語ってはいけない。人様の「財」を預かるならなおさらである。期待値の計算は金融におけるリスク管理の基本だからだ。

新たな金融サービスを創出する際に、いくらUI/UXが優れていても、いくらユーザの利便性が向上しようとも、そこに「2:1で分けましょう」という仕様が紛れ込んでいたら、それは詐欺である。

フィンテックという言葉を前にすると従来の金融機関はあたかも悪で、フィンテックベンチャーこそが善であるかのような極端な思考を持つ人にたまに遭遇する。たしかに今、金融サービスのあり方や財の流れは確実に変わろうとしているし、旧態依然とした金融システムはハックすべきだ。

しかし、勢い余って金融の世界に「詐欺」が紛れ込むことだけは絶対に許されない。「知らなかった」は通用しないのだ。私は無知が悪いと言っているのではない。無知であることを放置し、不勉強なままでいることが罪なのである。

それに金融業界の規制に目を光らせる政府さえ納得させれば良いというものでもない。金融は本来、生活者にとって最も大切なサービスであり、そのサービスや仕組みを本質から盤石なものにできなければユーザの信用を損なう。それでは金融システムを変革するせっかくのチャンスをみすみす逃す事態になりかねない。

金融サービスを本気でハックしたいのであれば、フィンテックで何が変わり、何が変わらないのかをきちんと分けて考えることが必要だ。

そして、変わらないことについては「知らない」で済ませず、素直に学んでいく姿勢が求められる。同時に、「何かおかしい」と思ったことがあれば、それが長年続く慣行であろうと徹底的に疑うべきだ。

今後の連載について

本連載は、今秋からデジタルハリウッド大学大学院で本格始動する金融システムのインキュベーションプロジェクト「 サイバーファイナンスラボ・プロジェクト」で講義予定の内容を中心に、フィンテック、とりわけ金融システムに関する話題をお送りする予定だ。今回取り上げた金融の基礎数学についても、文系の方でも理解できるように今後、詳しく説明をしていくつもりである。

同プロジェクトの次回のミートアップは6月16日(木)を予定。興味がある方はぜひ足を運んでみていただきたい。

文・尹煕元(CMDラボ代表。慶應大学院博士課程修了(工学博士、数値流体力学))/ZUU online

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