「子供のいない人生」も考える

(写真=Chinnapong/Shutterstock.com)

本当に「若ければ妊娠しやすい」のか

出産年齢の高齢化や少子化が問題とされるようになってから、女性に対し「年齢が上がると妊娠しづらくなる、だから早く妊娠出産を」という呼びかけが増えました。私たちは、不妊治療の負担を避けたいなら若いうちに妊娠すべきなのでしょうか。本当に、若ければ妊娠しやすいのでしょうか。

『非科学的知識の広がりと専門家の責任-高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと』(田中重人『学術の動向』2017年)という論文が、妊娠のしやすさと年齢に関する論拠の問題点を指摘しています。

2015年、全国の高校に配布された『健康な生活を送るために』(2015年度版)という保健科目用副教材には、「女性の妊娠のしやすさは22歳でピークを迎えた後急激に低下する」という内容のグラフが掲載されています。このグラフは「加齢により妊孕力(にんようりょく)=妊娠する力が落ちる」ことの根拠としてさまざまな場面で使われているのですが、妥当性に疑問の声が上がりました。

一つは、もともとのデータ処理の問題です。このグラフの元となった研究では、早婚の女性のデータのみを使用しているために、結婚からの時間経過による性交頻度の減少などが大きく影響していると考えられ、生物学的な意味での妊孕力を示した結果になっていないのです。

また、この元論文の他論文への引用のされ方を見ると、無批判に根拠として使っていい信頼性のある研究とは言えず、高校教材に掲載したグラフも急激に妊孕力が落ちるような見え方に加工してあるなどの問題もあります。

他にも、一般社団法人日本生殖医学会『不妊症Q&A』(2013年)が「女性の年齢と妊孕力の変化」というグラフを掲載していますが、これも上記のグラフと同様、データの取り方から「生物学的な意味での妊孕力」を示せるものなのか疑問が残ります。

そして重要なことは、これらのデータは「全体として、女性は年齢が上がると妊娠・出産が減る傾向がある」ということを示しているのであって、「私」あるいは「あなた」が「20代のうちはほぼ100%妊娠するが、40代になると4割以下の確率でしか妊娠できない」ということを言っているわけではない、ということです。あなた個人が妊娠しやすい年齢は、結局のところ誰にも分からないのです。

男性不妊について分かってきたこと

これまで不妊の原因として主に取り上げられてきたことは、女性の加齢でした。しかし近年、男性の不妊要因も次第に明らかになってきています。

NHK「クローズアップ現代+」は、2018年に2回にわたり、精子の劣化と男性不妊の問題について取り上げました。精子の数が少なかったり運動率が低かったり、DNAが損傷しているなど「妊娠を成功させる精子の力」の衰えが、様々な医療機関で指摘され始めているという内容です。

精子や男性不妊に関する研究はいまだ遅れており、分からない部分も大きいですが、その原因としては環境の変化とライフスタイルの変化の影響が指摘されています。

男性側に原因がある場合、自然妊娠もできにくくなりますが、不妊治療を開始して顕微授精を何度も繰り返したが妊娠に至らない、ということも起こり得ます。そして男性原因の不妊は、全不妊の約50%を占めるといわれているのです。