## 不妊治療と経済負担
(写真=Happy Zoe/Shutterstock.com)

不妊治療にかかるおおよその費用

不妊治療には費用がどのくらいかかるのか。おおまかに把握してみましょう。少し前のデータになりますが、不妊治療の当事者を支援するNPO法人Fineによる『不妊治療の経済的負担に関するアンケートPart2』(2013年)から、費用平均をご紹介します。不妊治療体験者1993名のデータです。

1周期あたり、つまり妊娠チャンス1回ごとの治療費は次の通りです。

<体外受精の平均治療費>
1位:30万~50万円未満(52.2%)
2位:50万円以上(26.9%)
3位:20万~30万円未満(14.5%)

<顕微授精の平均治療費>
1位:50万円以上(44.7%)
2位:30万~50万円未満(43.9%)
3位:20万~30万円未満(7.7%)

一方、治療費の総額は次のような結果となっていました。

<通院を開始してからの治療費の総額>
1位:100万~200万円未満(24.8%)
2位:10万~50万円未満(18.8%)
3位:50万~100万円未満(17.7%)

治療期間は2年~5年未満が43.2%、1年~2年未満が27.3%という結果なので、1~5年程度の不妊治療で数十万から数百万の治療費がかかる、という見当がつきます。

また、タイミング法、排卵誘発法では排卵時期をチェックしたりホルモン剤の内服や注射を行ったりしますが、それらの治療は保険適用内です。

助成金が出るのはどの治療?

厚生労働省は2004年に「特定不妊治療費助成事業」をスタートし、治療を受ける人の増加や年齢の上昇等の状況変化を踏まえて、2016年に制度改正しました。

助成の対象となる治療は、体外受精、顕微授精の二つ。1回15万、通算6回の助成が受けられます。助成にはいくつか要件があり、また自治体により違う点もあります。

隠れた経済的負担「不妊退職」

これらは目に見える費用ですが、もう一つ、陰に隠れた経済負担もあります。不妊治療による仕事への影響です。

治療と仕事の両立の困難さは、以前から声の上がるところではありましたが、前出のNPO法人Fineがアンケート調査によって数字として可視化しました。『仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2』(2017年)という調査で、これには5526名に上る当事者の声が集まりました。

仕事をしながら不妊治療を経験した回答者のうち95.6%が「両立は困難」と回答。実際に働き方を変えざるを得なかった人は40.8%に上ります。そして働き方を変えた人のうち半数は、退職を選んでいます。望んで働き方を変えた訳ではありません。70.5%の人が「これ以上は両立できなかった・限界だった」と答えています。

不妊治療にかかる費用は大きく、私たちの目は「この高額の治療費をまかなえるのだろうか」というところにとらわれがちでした。しかし、その陰に隠れて、望まない退職が進行している現状がありました。足元の経済基盤がさらさらと崩れていくかのような、深刻な問題です。