人生100年時代の「結婚」は?

(写真=Ververidis Vasilis/Shutterstock.com)

働き方の人生シナリオが変化すると、プライベート、そして結婚や家庭生活はどう変わるのでしょうか。

一方向に進む人生からマルチステージを行き来する人生へ

『ライフシフト』が新しい時代の人生として提唱するのは、教育・仕事・引退の3ステージを一方向に進む人生ではなくて、いくつかのステージを行ったり来たりするマルチステージの人生です。

仕事に専念し、金銭や財産などの有形資産を築くステージと、有形資産の形成を抑えて実践的学習や学び直しに充て、将来の可能性や人的ネットワークなどの無形資産を拡大するステージ。

移行期間を挟みながら、これらいくつかのステージを年齢に関係なく行き来する人生を『ライフシフト』は100年時代の人生として展望しているのです。

前に出る時期と後ろに下がる時期をパートナーと交代し合う

このようなライフシフトでは、結婚してパートナーとなった相手との関係において、フィールドで活躍するプレイヤーと場外でサポートするマネージャーのような関係性にはなり得ません。むしろ、コートの中で戦況に応じて前に出たり下がったりするバドミントンのダブルスペアのような関係と言えるでしょう。

昭和型の結婚を抜けた新しい時代の結婚を提唱する『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(白河桃子/是枝俊悟、毎日新聞出版)では、互いのキャリアを支える時期を持つ、夫婦の「Wキャリアシナリオ」を示しています。

出産期にぶつかる妻のキャリア立ち上げ期や夫の退職に伴う学び直し期に、それぞれが働き方をセーブしたりメインの稼ぎ手になったりして相手のキャリアをサポートするストーリーです。後ろに下がる時期に一方の収入は減りますが、生涯の世帯収支は大きなプラスになります。

女性初のプリンストン大学公共政策大学院院長となりアメリカ国務省政策企画本部長も務めた、いわばキャリアを極めた女性であるアン=マリー・スローター氏のアドバイスも感慨深いものがあります。

氏は、「パートナーがどちらも仕事でトップに昇りたいとしたらどうすればいいのか」という若いカップルの質問に、「二人とも選んだ分野でトップに昇る可能性はあるが同時ではなく、さまざまな時点でトレードオフと代償がある。そのとき、どんな選択をするのか計画を事前に話し合っておいた方がいい」と答えました(『仕事と家庭は両立できない?-「女性が輝く社会」のウソとホント』アン=マリー・スローター、篠田真貴子解説、関美和訳、NTT出版、2017年)。

これからの結婚は、常に一方が前衛で一方がサポートに回る必要はないですし、その方法で人生をサバイブすることもできません。このことを、私たち自身が理解しておく必要があり、それができる相手を選ぶ必要もあるのです。

これからの時代に求められるのはパートナーとの「純粋な関係」

『ライフシフト』は、人生シナリオの変化とともに、家庭内の関係も変化すると見通します。

従来の夫婦関係は、夫は仕事でお金を稼ぎ妻は家庭を保つ、いわば有形資産と無形資産を分担して担当して生産を補完し合う関係でした。しかしこれからの時代、パートナー同士の関係は「関係自体が双方に恩恵をもたらすからこそ維持される」、いわば「純粋な関係」に移行していくと言います。

つまり、お金とケアにおける一種の取引関係的な結びつきを離れて、「一緒にいることが幸せであるからこそ夫婦、家族」という関係に変わっていくということです。

純粋な関係は、相手と深く関わり絆を強めていく反面、いつでも関係を終了させることのできる自由と緊張感を併せ持ちます。関係を維持するには、二人が常に内省し調整し合い、お互いの信頼に足る態度で関係性を再検討し再構築していくことが必須になるのです。