「認知症」の人がいたら不動産は売れない?

実家の処分ができなくなるのは、相続登記未了で相続人が多くなる場面だけではない。不動産の権利者のなかに、重度の認知症の人がいる場合も、処分が非常に難しくなるのだ。

たとえば不動産所有者Hが死亡。相続人は妻Iと長男Jで、Iは高齢で、施設で生活している。Jは自分の家庭を持ち、東京で生活をしているとして、Iが重度の認知症である場合は、売却の意思の表示ができない。買い手が見つかったとしても、不動産売買に立ち会う司法書士がIの売却意思を確認できないのなら取引は流れてしまう。

Iが不動産売却の意思表示ができないのなら、遺産分割協議で不動産を長男であるJの単独所有にすればよいのではないかと思われるかもしれないが、これも難しい。遺産分割協議を行うにしても、判断能力が必要で、重度の認知症であればその能力に疑問符がつくためだ。

結局、Jの単独名義にして売却するにせよ、IとJの共同名義にして売却するにせよ、「成年後見制度」の利用を検討するべき場面だ。

問題は、成年後見制度を利用するためのコストだ。家庭裁判所への申立ては簡単ではないし、専門家が後見人になると費用も必要だ。司法書士などの専門家が後見人になる場合、費用は年間数十万円であることが一般的だ。

さらにネックになるのは、後見制度を利用して不動産を売却した後に、後見制度の利用をやめようと思っても、勝手にはやめられない点。成年被後見人になった者が亡くなるまで、年間数十万円の後見費用が必要になることを覚悟するべきである。この費用が気になって、不動産の処分を諦める人もいるのだから深刻な問題だ。

対策としては、不動産の所有者が亡くなる前に遺言を作成することだ。「不動産は長男の単独所有にする」という一言があるだけで、不動産の処分がしやすくなるのだから、遺言書はやはり有効なのである。

文・碓井孝介(司法書士)/ZUU online

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