最近、ニュースなどで「富裕層向けマンションの販売が好調」「富裕層に対する課税を強化」など「富裕層」という言葉をよく目にする。しかし、富裕層とは一体どのような人のことをいうのだろうか。そこで今回は、富裕層について考えてみたい。

NRIによる富裕層の定義

富裕層という言葉に明確な定義があるわけではないが、野村総合研究所が2016年8月~9月に、全国の企業オーナーを対象に調査した「NRI富裕層アンケート調査」の調査結果のレポートでは、次のように分類されている 。

(1)超富裕層……純金融資産5 億円以上
(2)富裕層……純金融資産1 億円以上5 億円未満
(3)準富裕層……純金融資産5,000 万円以上1 億円未満
(4)アッパーマス層……純金融資産3,000 万円以上5,000 万円未満
(5)マス層……純金融資産3,000 万円未満

ここでいう純金融資産とは、保有する預貯金、株式、債券、投資信託などの金融資産の合計額から負債を差し引いた額である。

この5分類による純金融資産の合計額と世帯数を見ると、

(1)超富裕層の純金融資産保有額が75兆円(7.3万世帯)
(2)富裕層が197兆円(114.4万世帯)
(3)準富裕層が245兆円(314.9万世帯)
(4)アッパーマス層が282兆円(680.8万世帯)
(5)マス層が603兆円(4173.0万世帯)

となっている。

(1)の超富裕層と(2)の富裕層が真の富裕層だと考えると世帯数が122 万世帯、純金融資産総額が272 兆円となる。世帯全体における富裕層の割合は、世帯数で2.3%、純金融資産額で19.4%となっている。つまり、全世帯のわずか2%の人たちが全体の約2割の資産を保有しているのだ。

なお、同レポートによれば、2013 年の世帯数と比較して、富裕層は20.0%、超富裕層は35.2%増加し、両者を合わせると20.9%増えているとのことである。アベノミクスにより株価が上昇し、金融資産を保有している比較的裕福な世帯のランクが上昇したためと考えられている。

また過去10年で見てみると、超富裕層と富裕層とも2005年から2007年に掛けては金融資産が増加しているのに、2009年にはがくっと減っている。それはリーマンショックによる影響と思われる。その後、2013年、2015年と資産額が増加し、リーマンショック前の資産額を上回るまで回復している。

一方、単身世帯の増加や高齢化などによって、世帯当たりの所得金額は減少傾向にあり、金融資産を多く持つ富裕層は益々利益を享受し、金融資産をほとんど持たない層の人は株価上昇の恩恵を受けられないという状態が生じている。ちなみに、最下層であるマス層の世帯割合は78.9%もある。つまり、全体の約8割は最下層に位置づけられる。多くの人たちがマス層にいるということは、多くの人がアベノミクスでの恩恵を受けられていないということだ。だから、景気が回復しているはずなのに、景気がよくなっているという実感が湧かないのだ。