暦年贈与での生前贈与を行う際の注意点

「暦年贈与」での生前贈与を行う場合は、次の点に注意したい。

まず相続開始前3年以内に贈与された財産については、相続税の対象となる点。それを基に計算された相続税から支払った贈与税を差し引いた額の納税義務が生じる。生前贈与は余裕を持って計画的に行いたい。

贈与の記録を残しておくこと重要である。基礎控除の範囲内で「暦年贈与」を行う場合、申告は不要だが、贈与の記録を残しておかなければ、税務署の調査が入った際に贈与が認められないというケースも起こり得る。贈与契約書を作成するように心掛けたい。現金の贈与を行う場合は、手渡しではなく銀行振込を活用し、資金移動の記録も残しておくべきだろう。「暦年贈与」では、あえて111万円を贈与して贈与税を支払うことで贈与の証拠を残すテクニックもある。

相続時精算課税制度 利用時には2,500万円の控除に惑わされないように

「暦年贈与」以外にもう一つ、贈与税にかかるルールがある。「相続時精算課税制度」と呼ばれる課税方法だ。これは受贈者が特定の贈与者から受け取る贈与財産を通算で2,500万円まで特別控除することができる制度である。相続財産を2,500万円まで非課税にできる制度と聞けば、非常にメリットのある制度に思えるだろう。ただ、「相続時精算課税制度」はその仕組みを正確に把握しておくことが重要だ。

まず、「相続時精算課税制度」を用いて贈与された資産は、相続時に相続財産に含まれ、相続税が課税されることとなる。贈与税は非課税となるが、相続税は発生することとなる。言い換えれば、相続時まで贈与財産への課税を猶予される制度とも言える。贈与税の非課税という言葉にまどわされず、支払うこととなる相続税額をにらみながら、活用を検討したい。

この制度では適用者が厳密に定められている。贈与者は贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上の推定相続人である子や孫に限られる。「暦年贈与」と異なり、贈与の対象者が厳格に規定されているのである。

相続時精算課税制度の利用は、他の制度との兼ね合いを考慮して検討を

「相続時精算課税制度」には、他にも様々な制約が掛かる。活用にあたっては、他の生前贈与や相続に関わる制度との兼ね合いを見ながら、検討を行う必要がある。

最も重要な点は、一度「相続時精算課税制度」を選択した場合、それ以降、同じ贈与者からの贈与で「暦年課税」を選択することは出来ないということだ。「相続時精算課税制度」の利用には、金額に関わらず、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に税務署へ制度利用の申告を行う必要がある。一度、制度利用を申告した場合、その後の贈与において年間110万円の非課税枠を用いた「暦年贈与」を行うことが出来なくなる。「暦年贈与」での贈与余地がある人は、先にそちらを優先させるべきであろう。

また「相続時精算課税制度」で住宅を生前贈与した場合、「小規模宅地等の特例」と呼ばれる制度の活用も不可となる。これは、相続財産となった住宅に同居していた親族がその相続を受ける場合、評価額が80%減額される相続税の特例である。この特例を利用して住宅の評価額を減額できる場合には、「相続時精算課税制度」による生前贈与を行わない方が相続税額を低くできるケースも多い。

さらに、「相続時精算課税制度」を利用して生前贈与された財産に係る相続税については、物納が不可となる点も頭に入れておきたい。相続税の支払いに必要な現金が少ないケースでは利用に注意したほうが良いだろう。

相続時精算課税制度を利用すべき人とは?

何かと制約の多い「相続時精算課税制度」であるが、生前贈与においてこの制度を活用すべき人とは、どのような人であろう。

まずは、最終的な相続財産が相続税の基礎控除内に収まる人である。その場合、最終的な相続税の支払いを気にせず、まとまった財産を一括で生前贈与することが可能である。

また、株式や不動産等、評価額が変動する物の贈与においては、生前贈与を行うことで、その評価額を確定させる効果もある。今後値上がりが見込まれる財産については、贈与を行った時点で評価額を確定させ、相続財産評価額が膨らむことを避けることもできる。投資用不動産等においては、贈与後の賃料収入は受贈者の資産となるというメリットもある。

「相続時精算課税制度」は、その仕組みを正しく理解し、他の生前贈与や相続に関わる制度との兼ね合いを見ながら、効果的に活用できるタイミングを計りたい。

生前贈与に関わる特例も有効活用したい

基本的に、生前贈与は「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」に基づいて行われることとなるが、その他にも時限措置としての特例や、特定の条件を満たした場合に適用される特例も存在する。

まずは、夫婦間で居住用不動産を贈与する場合の配偶者控除である。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産やその取得資金を贈与する場合、基礎控除の110万円とは別に、最高2,000万円までの配偶者控除が受けられる制度である。

また、子や孫が直系の父母や祖父母から住宅購入資金としての金銭贈与を受ける場合、条件によって、最大で3,000万円まで非課税となる制度もある。現状、2021年末までの時限措置であることに加え、購入する住宅や購入時の消費税率によって、非課税額が大きく異なるため、注意は必要であるが、生前贈与においては、積極的に活用したい制度である。

さらに、子や孫が直系の父母や祖父母から教育資金や結婚・子育て資金の贈与を受ける場合にも、非課税枠が設けられている。教育資金の場合、最大で1,500万円、結婚・子育て資金の場合、最大で1,000万円となっている。受贈者に年齢制限がある点や、共に2019年末までの時限措置である点には注意したい。

これらの特例は贈与される財産の使途が明確になっていることが前提である。住宅購入の場合は購入や居住の証明が必要となり、教育資金や結婚・子育て資金の場合は金融機関による管理契約が必要となる。使途を偽った申請は出来ない仕組みとなっている。

大原則は「贈与は双方同意の下で」

生前贈与とは「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」に加え、様々な特例を活用することにより、相続財産を圧縮し、相続税負担の軽減を図る目的を持つ。これを考えるに当たって、利用する制度ごとに注意すべき点は多くあるが、基本的な考え方にも気を配る必要がある。

当たり前だが、贈与とは贈与者と受贈者が双方同意の下に行われるのが原則である。この基本的な考え方が成り立っていないために、生前贈与が認められないこともある。

認められるためには、双方の同意と実質的な財産の移転が必要である。双方の同意については、贈与契約書を取り交わす等の手続きを行うべきである。また実質的な財産の移転であるが、贈与財産が実質的に受贈者に帰属することを示す必要がある。名義こそ受贈者の物ではあるが、実質的に贈与者が管理している銀行口座への贈与は、贈与者による一方的な贈与とみなされ、生前贈与が認められないこととなる。もちろん贈与税の手続きは受贈者が行う必要があることは言うまでもない。

贈与に絡む様々な仕組みを理解し、相続税等と比較しながら最適解を探すこととなる。しかし、その根本にある「贈与は贈与者と受贈者の同意に基づく」という大原則を疎かにすれば、生前贈与は意味をなさなくなる。

文・ZUU online編集部/ZUU online

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