人生100年時代と言われ、老後の時間が昔よりも長くなっています。厚生労働省の「簡易生命表(2019年)」によると、日本人の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳となっています。これに対し、国民生活基礎調査などの結果から算出されている2016年の健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を見ると、男性が72.14歳、女性が74.97歳でした。その差は男性で約9年、女性で約12年。この期間に介護や医療が必要になる可能性が高くなることがわかります。身近な親に衰えが見え始めたときに、どういった準備ができるのでしょうか?
高齢の親の健康が気になり始めた
人は誰でも老いていくものです。子どもの頃、とても頼れる大きな存在だった親も、いつしか気がつけば子どもに心配される立場になったという感じを持つことは誰にでも訪れるかと思います。そういったときに、「介護」という心配が現実味を帯びてくるのではないでしょうか。
厚生労働省が毎月発表している「介護保険事業状況報告」の2020年10月の月報(暫定版)によると、要介護(要支援)認定者数は678万2,000人(うち男性が215万人、女性が463万2,000人)で介護保険の第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は約18.6%となって近年右肩上がりで増加しています。
実に65歳以上の約5人に1人はなんらかの要介護(要支援)認定を受けていることになります。誰にでも起こりうる介護は本人やその家族の生活に大きな影響をもたらすことがあります。
実際に介護が必要になるときは人それぞれで、それがいつ来るかはわかりません。年齢を重ねることで徐々に足腰などの体が衰えていく親を見て「そろそろ介護が必要かもしれない」とその準備を始める人もいます。しかし、中には突然介護が必要になる人もいます。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年度)によると、介護や支援が必要になった主な原因は「その他・不明・不詳」を除くと1位は「認知症」で、次いで「脳血管疾患(脳卒中等)」、「高齢による衰弱」、「骨折・転倒」等となっています。
脳卒中の場合、約7割に後遺症が残ると言われています。脳卒中が原因による運動麻痺や失語症などの後遺症、あるいは骨折・転倒により、突然介護が必要になるケースもあるでしょう。
突然の介護に慌てないためにも、やはり準備は大切と言えるでしょう。そのためには、次の2つのことが大事になってきます。
親と介護について話す
介護の形もさまざまありますが、大事なのは「介護される人」と「介護する人」双方が、どういった形での介護を望んでいるかを元気なうちによく話し合っておくことです。
そして、親が現在どのような生活をしているのか、経済状況なども含めて確認しておくことが必要です。親がどんな人とお付き合いがあるのかも確認しておけば、その人たちからの助けを受けられることがあるかもしれません。
元気なうちに話しておくことが大切なのは、いざ介護が必要となったとき、場合によってはそれらの情報が一切なく、確認したくてもできない状況で介護を始めなくてはならない事態になる可能性もあるからです。
介護についての情報を集める
どのような介護サービスがあるのかを知っておくことも大事です。初めて介護が必要になったときなどは、どこで誰に相談したらよいのかもわからない場合もあるかと思います。事前に調べておけば、迷ったり慌てたりすることも少なくなるでしょう。
介護のことは「地域包括支援センター」が頼りになります。介護のことが気になり始めたら、相談することもできます。また、自治体の福祉や高齢者を担当している窓口、かかりつけ医の先生やソーシャルワーカーにも相談するといいでしょう。
親の介護にかかる平均費用と年数
実際に親の介護にはどれくらいの費用と月日がかかるのでしょうか?もちろん、人それぞれ状況は異なりますので、あらかじめ費用や年月を正確に知ることはできません。それでも過去の統計数字を目安とすることができますので、知っておくと参考になるでしょう。
介護の一時的な費用と月額
介護には在宅介護のための住宅改造や介護用ベッドなどの購入や入居型介護施設の入居時の費用にかかる一時的な費用や、月々にかかる費用があります。
公益財団法人 生命保険文化センターが実施している「生命保険に関する全国実態調査」(2018年度)によれば、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、一時費用の合計が平均69万円、月々の費用の平均が7万8,000円となっています。
またそれらのかかった費用別の割合は以下のようになっています。
一時的な費用の合計(単位:%)
費用 なし |
15万円 未満 |
15~25 万円未満 |
25~50 万円未満 |
50万~100 万円未満 |
100~150 万円未満 |
150~200 万円未満 |
200 万円以上 |
不明 | 平均 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
15.8 | 19.0 | 8.6 | 6.8 | 9.1 | 6.0 | 1.9 | 6.1 | 26.7 | 69万円 |
費用 なし |
1万円 未満 |
1万 ~ 2万5千円 未満 |
2万5千 ~ 5万円 未満 |
5万 ~ 7万5千円 未満 |
7万5千 ~ 10万円 未満 |
10万 ~ 12万5千円 未満 |
12万5千 ~ 15万円 未満 |
15万 円以上 |
不明 | 平均 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3.6 | 5.2 | 15.1 | 11.0 | 15.2 | 4.8 | 11.9 | 3.0 | 15.8 | 14.2 | 7万8千円 |
なお、民間が運営する有料老人ホームなどの入居型介護施設を利用する場合では、その入居一時金が数百万円から数千万円であったり、介護費用のほかに施設の利用料が月額数十万円する施設もあります。民間の施設の場合、かかる費用の差がとても大きい場合があることから、よく調べて比較検討することが大事です。
介護に費やした期間
介護を行った期間(現在介護を行っている人は、介護を始めてからの経過期間を含む)は平均で54.5ヵ月(約4年7ヵ月)となり、4年以上介護した割合は4割を超えているようです。
介護期間(単位:%)
6ヵ月 未満 |
6ヵ月~1年 未満 |
1~2年 未満 |
2~3年 未満 |
3~4年 未満 |
4~10年 未満 |
10年 以上 |
不明 | 平均 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6.4 | 7.4 | 12.6 | 14.5 | 14.5 | 28.3 | 14.5 | 1.7 | 54.5ヵ月 (4年7ヵ月) |
月々の介護費用に平均の介護期間をかけて、これに介護の一時的な費用を加えることで、介護にかかるおおまかな全体費用の目安が約500万円であることが見えてきます。
月々の平均費用(7万8,000円)×介護の期間(54.5ヵ月)+一時的な費用(69万円)=494万1,000円
介護保険サービスの限度額と自己負担額
介護サービスを受けるときに介護保険を利用することで自己負担が軽減されます。介護保険は国民保険や健康保険に加入している40歳以上の人で、介護を必要としている状態であれば特定のサービスを受けることができる制度のことを言います。
保険者は市区町村です。ただ気をつけなければならないのは、65歳以上の「第1号被保険者」と40歳以上65歳未満の「第2号被保険者」では受けられる介護サービスの条件が違うので注意が必要です。
介護保険を利用するためには以下の流れで手続きを進める必要があります。
1.原則として市区町村窓口での要介護・要支援の認定申請
2.認定のための担当職員による自宅や病院への訪問調査
3.介護認定審査会で審査判定
4.認定結果通知
5.ケアプラン作成
6.サービスの利用開始
介護保険で施設を利用した場合の自己負担
公的な介護保険施設には「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」、「介護老人保健施設」、「介護療養型医療施設」、「介護医療院」があります。
介護保険で施設サービスを利用した場合、施設サービス費の自己負担割合は世帯収入と人数に応じて1割から3割(介護保険からの給付は9割から7割)ですが、居住費や食費は全額自己負担になります。ただし、低所得の人の支援のため居住費と食費には負担限度額が設定されています。
(例)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の居住費と食費の負担限度額
基準費用額 (日額) | 負担限度額(日額)※ | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | 第4段階 | |||
食費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 | 負担限度額設定なし | |
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 | |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | ||
従来型個室 | 1,150円 | 320円 | 420円 | 820円 | ||
多床室 | 840円 | 0円 | 370円 | 370円 |
設定区分 | 対象者 |
---|---|
第1段階 | 生活保護者等 |
世帯全員が市町村民税非課税で、 老齢福祉年金受給者 |
|
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、 本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円以下 |
第3段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、 本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円超 |
第4段階 | 市区町村民税課税世帯 |
<参考>介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で施設サービス自己負担の1ヵ月あたりの目安
要介護5の人が多床室を利用した場合 | 要介護5の人がユニット型個室を利用した場合 | ||
---|---|---|---|
施設サービス費の1割 | 約2万5,000円 | 施設サービス費の1割 | 約2万7,500円 |
居住費 | 約2万5,200円 (840円/日) |
居住費 | 約6万円 (1,970円/日) |
食費 | 約4万2,000円 (1,380円/日) |
食費 | 約4万2,000円 (1,380円/日) |
日常生活費 | 約1万円 (施設により設定) |
日常生活費 | 約1万円 (施設により設定) |
合計 | 約10万2,200円 | 合計 | 約13万9,500円 |
居宅サービスの1ヵ月あたりの利用限度額
居宅サービスには「訪問介護」、「訪問看護」、「通所介護」などのサービスがあります。居宅サービスを利用する場合は、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に決められています。
この支給限度額の範囲でサービスを利用した場合、1割(一定以上所得者の場合は2割または3割)の自己負担となります。限度額を超えた分については全額自己負担となります。
1ヵ月あたりの利用限度額と自己負担限度額(2019年10月現在)
要介護度 | 利用限度額 | 自己負担限度額 (1割負担の場合) |
---|---|---|
要支援1 | 50,320円 | 5,032円 |
要支援2 | 105,310円 | 10,531円 |
要介護1 | 167,650円 | 16,765円 |
要介護2 | 197,050円 | 19,705円 |
要介護3 | 270,480円 | 27,048円 |
要介護4 | 309,380円 | 30,938円 |
要介護5 | 362,170円 | 36,217円 |
利用限度額、自己負担限度額は地域区分による上乗せのない「その他」(1単位10円)の地域の場合の金額です。有料老人ホームなどで介護を外部に委託している場合の、外部サービス利用型特定施設入居者生活介護費の支給限度基準額は別途定められています。
民間の介護保険に加入していないかの確認もしましょう
親が民間の保険会社が提供している介護保険に加入しているかどうかも確認しておきましょう。多くの保険会社では要介護度に応じて保険金が支払われる設定がされていますが、中には「要介護2以上」と認定されれば保険金が出るものもあります。
要介護2は「軽度の介護を必要とする状態」ですが、在宅介護では、階段への昇降機の設置や風呂場に手すりを付ける等、バリアフリーにするために多額の費用が必要になる場合があります。
保険金の受け取り方には「一時金での受け取り」や「年金での受け取り」方法がありますが、一時金として保険金を受け取れば介護が始まるときの一時費用をある程度カバーできるでしょう。
兄弟にも介護費用負担してもらいたい・・・
兄弟姉妹がいる場合に親の介護をそれぞれが均等に負担できれば理想かもしれませんが、現実は親と同居している人に負担がかかったり、遠方に住んでいるため介護が難しかったり、兄弟姉妹それぞれの家庭の事情もあったりと、理想通りにはなかなかいかないものです。
実際の親の身の回りの世話(人的負担)は時間的や地理的な制約から無理だとしても、介護費用についての金銭的な負担(経済的負担)はどうでしょうか?主に親の介護の世話を金銭面からも負担している人が、兄弟姉妹に金銭面の負担を求めることはできないのでしょうか?
法律上での親の介護負担・扶養義務に関連する規定を確認すると、民法877条で「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と規定されています。
つまり、親の介護が必要な状態になったときなどは、親と同居しているかどうかは関係なく、兄弟姉妹それぞれに親を扶養する義務が生じるということです。義務が生じるため、場合によっては介護費用などの経済的負担を兄弟姉妹にも請求することが可能です。
必要なら、まずは兄弟姉妹でよく相談して介護の費用負担を求めるようにしてみましょう。お金の話になると兄弟姉妹でもトラブルに発展することがあります。お互いの意見を尊重しあって、話し合うことが大切です。
それでも話し合いがまとまらないような場合は、家庭裁判所に「扶養請求調停」の申し立てを行う方法もあります。仮に取りまとめたそれぞれの義務が果たされない場合は強制執行も許可され、支払い義務が履行されていなければ、財産の差し押さえなども行われます。
いずれにせよ、特定の人だけに負担が集中することを避け兄弟姉妹で協力し合うためには、話し合いを持つことが大事になります。
高齢の親を見守ろう!
親の介護については、その準備や介護についての情報を調べておくことが大事であることを見てきました。さらにそれ以上に大切なことは、日ごろから親や兄弟とコミュニケーションを持っておくことではないでしょうか?
直接顔を合わせることがなくても、今はスマホなどの普及で、時間や場所の制約を受けることなくお互いの顔を見ることも可能になりました。そういった普段からのコミュニケーションを通じて親の様子をみることも、大切な親孝行かと思います。
提供・UpU
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