自分を甘やかす心理的メカニズム

では、どうして、こんなことが起こるのでしょうか。誰かに騙されてしまったのでしょうか?

そうです。実は自分の中にいる「もう一人の甘い自分」に騙されているのです。これを心理学では、「モラル・ライセンシング」といいます。

スタンフォード大学のケリー・マクゴニガル教授は次のように説明をしています。「人は、なにか良いことをするといい気分になります。そうすると自分の衝動を信用しがちになり、その結果、多くの場合、悪いことをしても構わないと思ってしまうのです」

モラル・ライセンシングは、良いことをしたあとに「善悪の基準が甘くなってしまう」心理的メカニズムです。しかし、ときには何も良いことをしていないのに「善悪の基準が甘くなってしまう」ケースもあります。

たとえば、チャリティにお金を寄付したと「考えるだけ」で、自分は良いことをした気分になり「自分のために買い物をしたくなった」という実験結果もあります。

「もう一人の甘い自分」に騙されないために

では、このように甘やかしてしまう「もう一人の自分」が登場した場合、どうすれば良いのでしょうか? ケリー・マクゴニガル教授は、その対策方法として「原点に立ち返る」ことを勧めています。

「なぜ、良いことをしたのかを思い出せ」

マクゴニガル教授は、そうアドバイスします。本来の目標が「お金を貯める」ことであれば、その「お金を貯める」原点に立ち返ることで、「もう一人の甘い自分」に騙されることはなくなると言います。

ダイエットも同じで、ケーキを食べるのが目標ではありません。ダイエットの目標は「痩せる」ことです。原点を忘れてはいけません。私自身も午前中に原稿を書く仕事がはかどったとしても、午後にアニメを見ていたのでは、原稿はできません。最終的には原稿を完成させることが「目標」なのです(反省)。

「明日の自分」は今日とは違う?

ところで、「目標」の設定について、こんな勘違いをする人も少なくありません。

腹筋マシーンを購入した人が、1週間に5回以上トレーニングをするという目標を立てました。しかし、今週は1週間で3回しかできませんでした。そこで今週できなかった分を含めて、次の1週間は7回以上のトレーニングを「目標」に設定するケースです。

本人は実現可能な目標だと思っています。今週は無理だったけれども「来週はもっとできる」「明日はもっとできる」と考えがちです。先のことを楽観視する傾向があり、あとで取り返せるなどと思っている人に限ってそのような目標を設定する傾向があります。

しかし、それが勘違いだと言うことは、翌週に気づくことになります。

「明日から禁煙をはじめる、今日がタバコの吸い納めだ!」と思っている人は、明日は違うと思っているのです。しかし、だいたいの場合において「明日も同じ」なのです。

人間はそう簡単に変わることはできません。今日も、そして明日も同じ行動をするのです。

私は以前
「目先の欲求を辛抱したほうが、将来の成功につながる」 ことを証明したマシュマロの実験を紹介しましたが、マクゴニガル教授の「モラル・ライセンシング」もそれに通ずるものを示唆していると考えています。くれぐれも原点を忘れることのないよう、自分を甘やかしてくる「もう一人の自分」に騙されることのないようにしたいものです。

文・長尾 義弘(NEO企画代表、ファイナンシャル・プランナー、AFP)/ZUU online

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