この記事は、一人の爆音歌唱講師・部屋純子が経験したドタバタ劇をもとに、10代後半~30代の声の仕事をする人たちに向けて、声帯トラブルへの対処法や予防策をユーモアも交えて伝えるものである。みんな、私の失敗談から学んで喉を守ってくれ!

声帯さん、大ピンチ

 音大の必修授業「音声生理学」、卒業しても大事に取っておいて本当に良かったとばかりに、今さら大慌てで教科書を熟読中。生徒たちの活躍はどんどん大舞台へと広がり輝きを増しているのに、私の高音域には謎のハスキーボイス現象が発生。さらに喉風邪、コロナ、インフルエンザと病気のオンパレードを繰り返しているうちに、とうとう声が元に戻らなくなってしまった。

 これまで歌唱で喉を壊さずに済んだのは師匠の神レベルな指導のおかげ。その恩義を胸に、大阪・南船場の牟田耳鼻咽喉科へと駆け込んだ。診察番号はまさかの「13」。「ジョジョ」のデス・サーティーンが頭をよぎる。

 牟田弘先生はユーモア溢れる寛大な先生でありながら、日本屈指の音声外科の権威でもある。お坊さんやアーティストも多く通うその医院では、「音大生には特に詳細な診察をするで~」がポリシー。いつも音大出身の私は「歌科女子」と認識されており、ついつい長話をしてしまい、最後は看護師さんに先生が叱られるほどだ。設備も最新鋭で、超高画質のカメラで声帯を見ることができる、私にとってここはまさに音声マニアのテーマパーク。

 その牟田先生が今回は珍しく「あぁ~、これは手術ちゃうかな~!」と即答。

「欧米では70歳を超えたら手術はできんから、僕の弟子を紹介するわ。これ見て、凄いやろ」と、その先生がポリープを鮮やかに切除する貴重な動画まで見せてくれた。その時の牟田先生の表情は、弟子への信頼と誇りに満ちていた。翌日、私は迷わず大阪ボイスセンターに駆け込んだ。

 紹介状を手に望月隆一先生と対面すると、先生は私のやや怪しげな風貌とほぼ出ない声を聞いたうえで「あんた、牟田先生と話が合いそうやな」と不敵な笑みを浮かべていた。