全8作ある「ハリー・ポッター」シリーズのなかで、もっともダークな色彩に彩られているのが『死の秘宝 PART1』です。最終作『死の秘宝 PART2』を盛り上げるための演出でもあるわけですが、作品全体を暗い影が覆っている理由はそれだけではなかったようです。
CGシーンが満載の「ハリー・ポッター」シリーズですが、実際の撮影現場はかなり体を張ったアクションシーンが多く、ダニエル・ラドクリフにはスタントダブル(代役)が帯同していました。第1作『賢者の石』からダニエルのスタントダブルを務めていたのが、体操競技が得意で小柄なデヴィッド・ホームズです。
アクションシーンはすべて、まずデヴィッドが演じてみて、危険がなければ彼の動きを真似て、ダニエルが演じたわけです。また、年上のデヴィッドをダニエルは慕い、撮影の合間には一緒に遊ぶなど、仲のいい兄弟のような関係になったそうです。
スタントマンとしての仕事に誇りを持ち、デヴィッドは10年間にわたってダニエルの代役を務め続けました。そして最終章となる『死の秘宝 PART1』のリハーサルにデヴィッドは挑んだのですが、ヘビと戦うシーンで悲劇が起きてしまいます。
ワイヤーワークを使ったシーンだったのですが、ワイヤーを引く力が強すぎて、デヴィッドは後ろの壁に叩きつけられ、首の骨を折ってしまったのです。大手術をしたものの、半身不随となってしまいます。
事故の知らせを聞き、ダニエルも病院に駆けつけますが、自分のスタントダブルであり、ずっと苦労を共にしてきた兄貴分のデヴィッドが再起不能の重傷を負ったことに、大ショックを受けます。『死の秘宝 PART1』でハリー役のダニエルの顔がずっと暗いままなのは、バックステージで起きたこのトラブルも影響していたように思います。
魔法よりもずっと強力なもの
車椅子生活を余儀なくされたデヴィッドですが、母親が「責任者を訴えよう」と持ちかけたところ、「僕以外の人の人生まで、台無しにしたくない」と断っています。また、「ハリー・ポッター」シリーズが終わりを迎えたことで、ダニエルが「これからどうしようか」と悩んでいた際には、「つかんだチャンスを手放すな」とアドバイスし、ダニエルに俳優業を続けることを勧めています。