『R-1』でのファイナリスト記者会見での新山による「石井やったでー発言」は、そういった経緯を受けてのもの。ファイナリスト記者会見の模様を掲載するネットニュースの中でもっともよく見かけたのも、不仲を逆手にとったこのコメントだった。つまり、記者たちの心をちゃんとくすぐったのだ。まさに新山の思惑通りだったのではないだろうか。
一方、筆者は、不仲もネタとしてキャッチーに仕上げてくる新山の……、いや、さや香のバラエティセンスに常に震撼している。不仲コンビの特徴は、周囲が気を遣ってその関係性についてあまり触れられないところである。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が密着し続けたおぼん・こぼんや、竹内ズなどは、番組として大々的に取り上げたからこそ、オープンな場で触れられるようになった。しかし同番組が言及しなければ、そうそう気やすく触ることができるものにならなかっただろう。ただ、さや香は自分たちから「不仲」というワードを大々的に売り出した。そして「さあ、おもしろくいじってくださいよ」という動きを作った。「不仲」の事実を、誰でも触ってOKという風にポップ化したのだ。これはなかなかできるものではない。
インタビュー時のふたりは…
あと良い部分として、前述したように「不仲」を公言してくれることで周囲も余計な気を遣わなくて済むところ。筆者も2024年、上京前のさや香をインタビューした。インタビュー自体は実に内容が濃く、石井は東京進出後の自分の方向性について、そして新山は「見せ算」をはじめとするさや香の漫才の構造について、じっくり話してくれた(ちなみに筆者は「見せ算」を高く評価していて、なによりさや香の大ファンでもある)。ただ、話の内容は濃かったが、二人が目を合わせたり、会話をラリーさせたりする場面は一度もなかった。さや香はいわゆる「ビジネス不仲」ではなく、「ガチ不仲」だったのだ。
もしこれが「不仲」を公言していないコンビや、表向きは仲が良いとされているコンビであれば、インタビュアーとして「どうしたんだろう」「大丈夫かな」となる。気を遣うのはもちろんのこと、なんなら強引に二人の話をラリーさせることもあるかもしれない。しかしさや香の場合は「不仲」であることは周知だったので、こちらもその雰囲気に動じることは一切なかった。だからこそ、インタビューもスムーズに進行した。