バルカに向かう機内で、乃木は野崎の手を握り「あなたは鶏群の一鶴。眼光紙背に徹す」とつぶやく。「鶏群の一鶴」とは、多くの凡人の中に1人だけ極めて優れた人物がいることのたとえで、「眼光紙背に徹す」は、表面だけでなく、その背後にある真意を読み取ることを表している。野崎の有能さを理解している乃木は、野崎なら自分の真意を察してくれる、と考えているのではないか。乃木の狙いがどこにあるのかは読めないが、乃木が野崎を頼りにしていることは伝わる。バルカで張った「共同戦線」はまだ有効だと伝えようとしているのではないか。

 気になるのは、乃木が交際することになった医師の柚木薫(二階堂ふみ)もだ。2人で迎えた朝、乃木は薫に目玉焼きの美味しい焼き方を教え、それを動画で撮影する。愛を知らずに育った乃木の想いが通じた幸せなシーンに一見映るが、不自然さもチラつく。たとえばご飯をよそうときの乃木の、妙に厳しい表情。はたしてあれはただの、死を覚悟する任務を前にした男の表情に過ぎないのだろうか。

 本作は、以前から「色」の要素が指摘されている。たとえば黄色。第6話冒頭、周囲をだまして私腹を肥やしていたテント幹部が粛清されるシーンがあったが、この幹部が着ていたのは黄色の衣服だった。テントのモニター(協力者)だった山本巧(迫田孝也)も黄色のネクタイを着用していたなど、黄色は「裏切り者」の色ではないかとの推測がある。TBSが今年2月に公開した『VIVANT』のティザー動画では、乃木を演じる堺雅人の顔の一部がモザイクになったり、黄色になったり、青色になったりと変化する。これは乃木の謎めいた一面を示しているとみられるが、第7話ラストの“裏切り”とティザー動画の黄色が呼応する。

 そしてこのティザー動画で、薫を演じる二階堂ふみのバックの色が黄色なのだ。さらに言うと、ベキを演じる役所広司の部分では「正義」という文字が赤で表現されている。そして同じく「愛」という文字が赤で表現されるのが二階堂。赤は本ドラマで象徴的に使われている色でもあり、これがテントを意味するカラーなのであれば、薫は実はテントに通じている存在……というヒントの可能性があるのだ。実際、第1話ラストでベキは、ジャミーンについて「退院後は我々で面倒を見る」と宣言していたが、実際にジャミーンの面倒をずっと見ているのは薫だ。ジャミーンとテントの関係性も謎に包まれているが、「我々」の意味するところに薫も含まれているのであれば、薫はテントの一員としてジャミーンをずっと保護してきたのだと見ることができる。薫に想いを告げた夜、乃木は台所で崩れ落ちるように号泣していた。初めての愛を知った美しいシーンのようだが、実は乃木が薫がテントの人間だと気づき、愕然としたのだとしたら。だからこそ翌朝、乃木は薫のなにげない場面をなぜか動画に収めていたのではないだろうか。しかし、たとえ薫がテントの一員であっても、乃木にとっては愛を教えてくれた大切な存在。乃木の薫への想いはどこに向かうのだろうか。そして乃木に近づいた薫の愛の言葉はどこまでが真実なのか。