それでは、なぜ、厚生年金に加入する要件を見直そうとしているのでしょうか。それは、より多くの人に厚生年金保険に加入してもらうことで年金制度を維持し、所得代替率を低下させないようにするためです。
厚生労働省は、7月に公表された年金財政の検証において、2024年度の所得代替率は61.2%であり、「過去30年投影ケース(過去30年と似たような経済情勢だった場合)」では2057年度の所得代替率が50.4%に低下する、と試算しています。
しかし、企業規模要件を廃止し、かつ従業員が5人以上の個人事業所にも厚生年金に入ってもらうと、過去30年投影ケースで、2054年度に所得代替率が51.3%に前倒しで上昇すると予測しています。このシミュレーションに近づけるために、まず106万円の壁を撤廃し、所得代替率を高めようというのが106万円の壁を撤廃する目的です。
まとめ
今回は106万円の壁をなぜ撤廃しようとしているかについてお伝えしました。世間では働き控えや人手不足の解消などが理由とされている節がありますが、本質的には所得代替率を引き上げることが目的です。
メディアの伝えることは確かに間違いではありませんが、重要な部分がスルーされていることに違和感を覚えます。
端的に「将来、現役世代の人たちがもらえる年金が減るかもしれません。106万円の壁を撤廃するので、みなさん厚生年金に入ってください」と言えばよいものの、働き控えの抑制など、分かりやすくイメージしやすい論点で語ろうとする風潮はいかがなものかと思います。
確かに「はっきりと言ってしまうと、政権にとって大きなダメージになりかねないのでお茶を濁す」という選択は分かりますが、時間をかけて丁寧に話すことは必要ではないでしょうか。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)