106万円の壁が撤廃されると、次のような影響があると考えられます。
●従業員にとっては、働き控えの抑制につながり収入増が見込めるが、社会保険料の負担が必要になる
●事業者にとっては、人件費が増加しやすくなる
●しかし、予定される助成金などの支援制度を活用することにより、すぐに経営に悪影響が及ぶものではなさそう
報道を見るかぎり、このようなイメージを持つ方は多いかもしれません。残念なことに、このような伝え方は問題の本質を見誤る可能性を秘めています。
冒頭でお伝えしたように、106万円の壁の撤廃は来年の年金制度改革に向けた一つの方策です。年金制度を改革する目的は、年金制度を維持するうえで「所得代替率」を低下させないようにする、つまり、現役世代が将来もらえる年金をなるべく減らさないようにするために、年金制度をどのように維持するか、にあります。
先ほど、「106万円の壁の3要件を満たす場合、社会保険制度に加入する必要がある」と伝えました。ここにまず1つ目の誤解が生じています。実をいうと「社会保険制度」とは、106万円の壁撤廃に限っては、厚生年金保険に限定した話です。
なぜかというと、「106万円の壁」は標準報酬月額表における等級が「4(1)以降」の方に関係する話だからです。
“4”は健康保険に加入する際に用いられる等級、(1)は厚生年金保険に加入する際に適用される等級と分けることができます。後者(厚生年金保険)の要件のうちの2つ(企業規模と年収金額)を撤廃するというのが、今回伝えられている「106万円の壁撤廃」のニュースです。
このようなことから、「106万円の壁撤廃は、厚生年金に限られた話」ということができます。
では「106万円という年収ラインをなくす代わりに、156万円という新たなラインを設ける」とは、どのような意味でしょうか。
標準報酬月額表において、年収156万円は9(6)等級に該当します。報酬月額の範囲は12万2000~13万円、標準報酬月額にすると12万6000円になります。範囲の上限である13万円に12ヶ月を掛けると156万円になります。
このような根拠で、156万円という数字が導き出されています。これについてもカッコ内の等級に限ってのことなので、厚生年金に限定された話です。要するに「106万円の壁の撤廃は年金制度、特に厚生年金についての基準を変更するものである」と理解する必要があります。