◆祖母がひとりで苦労を背負う
誰か止めないのか? と思うのだが、珠江さんの父親はギャンブル好きが高じて借金まみれになり、母親はそんな家族に愛想をつかし、家出してしまったという。だから祖母は家族の世話に加え、酔っぱらった祖父の後始末で忙しかった。
「あのポンコども!!」
祖母はいつも馬も祖父もひとまとめに罵っていた。当時珠江さんには何のことはわからなかったが、今回あらためて調べてみると「クソ野郎」というニュアンスの方言だったようだ。
「私は生活に必要なものを買ってもらえないとかごはんが足りないとか、目に見えて不自由な暮らしをしていたわけではありませんが、次々起こるトラブルに頭を悩ませている祖母があまりに大変そうで、いつもどこか遠慮していました。
祖母がぼやくし借金取りも来るしで、物があふれていてもうちにはお金がないのがわかる。だからクリスマスプレゼントのリクエストを聞かれても、卓上クリーナーとか実用品しか言えませんでしたね」
母が家を出て行ったのは、珠江さんが小学3年生の夏だった。すると監視がゆるくなったからか、父が借金返済のためにとマルチ商法のアムウェイに、つづいて新宗教にも入会した。それらは、父の同級生からの誘いだったという。
「こいずばうっど、もうがっからよ~!(意味:これを売ると、儲かるんだぞ)」
父がうれしそうに、「飲めるほど安全」というフレーズで有名な洗剤を珠江さんに見せる。
「段ボールに囲まれた部屋で、いそいそと商品を並べる父。マルチ商法の知識がない小学生の目から見ても、“ああこいつはもうヤバい”と感じましたね。ほかには、なんちゃらの教祖さまからのありがたいお札とやらを枕の下に敷いて寝たり、パワーが抽入されている水とやらを頭からかぶったり」
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