では、実際に繰下げ期間中に大きな出費が発生した場合はどうすればいいのでしょう。慌てて年金の受給を始めても、年金は年6回の偶数月に2カ月分ずつ支給されるため、一気に大きな金額を賄うことはできません。
しかし、繰下げた期間の年金は、増額前の年金額になりますが、時効である5年を限度に遡ってまとめて請求できます。例えば、69歳になった時点で年金を65歳まで遡って請求すれば、増額分は受け取れないものの、65歳から69歳まで4年間の年金額を一括で受給可能です。もし増額前の年金額が月15万円、年間180万円であれば、4年分720万円を受け取れるため、500万円のリフォーム費用が発生しても、十分にその費用を賄えます。
一方で、69歳時点で遡った請求は行わず、繰下げ受給を開始すれば、それ以降、4年分の増額率0.7%×48ヶ月=33.6%が加算された年金額、年間約240万円を一生涯にわたって受給可能です。
ただ、どちらが有利かは、その後の年金受給期間の長短で変わるため一概には言えません。いずれにしても、それぞれの経済状況などに応じて選択することが大切です。
70歳以降の一括請求はどうなる
繰下げていた年金は一括で請求するか、その後、繰下げ受給で増額された年金を生涯受け取っていくか選択可能です。さらに令和5年4月からは「特例的な繰下げみなし増額制度」が創設され、70歳以降に一括して請求する選択肢もできました。
実は70歳以降でも、年金を一括請求可能なのは時効による5年に変わりないため、請求できない期間の年金も発生します。このデメリットに対応するため「特例的な繰下げみなし増額制度」では、70歳以降に年金を遡って請求した場合、5年前の時点で繰下げ受給の申出があったものと見なされるのです。
例えば、71歳で一括して請求すると、図表1のとおり、66歳で繰り下げ申出をしたとみなされ、1年分8.4%は年金が増額された上で、増額された年金を5年分一括で受け取ることができます。
図表1