◆横浜流星その人が江戸の花

NHK『べらぼう』
 町人役ではなく、武士階級の侍役なら、脚力に基づいて重心に裏打ちされた腰元で水平をとりつつ、あとは刀を振る手さばきを披露すればいいのだが、町人役は水平がとりずらい。

 脚力の演技が強くなって重量感があり過ぎてもまずいし、かといって上半身だけでぺらぺら軽妙に動くだけでは説得力がない。上半身と下半身がちぐはぐにならずにうまくバランスを保つ必要性がある。

 その点、横浜流星はほとんど完璧である。『べらぼう』第1回中盤、重三郎が寺の境内を走る場面がある。着物をまくって素足をあらわにした横浜の江戸っ子走りは、上半身と下半身のバランスが見事である。

「火事と喧嘩は江戸の花」という江戸っ子気質を言い当てたことわざがあるが、冒頭の大火場面、旗本・長谷川平蔵宣以(中村隼人)の取り巻きに一方的に重三郎が殴られる場面以上に、この完璧な江戸っ子走りを披露する横浜流星その人が江戸の花だ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修

「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu