ここでは、そんな歴史に残る「代役によるドラマ」の歴史を振り返りたい。

普通のおじさんがヘラクレスを倒した

 19年6月1日、米ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン。WBA・WBC・IBF世界ヘビー級王者・アンソニー・ジョシュアが防衛戦を迎えていた。挑戦者として予定されていたジャレル・ミラーが薬物違反で資格停止となり、その「代役」として白羽の矢が立ったのが、当時WBA5位にランクされていたアンディ・ルイス・ジュニアだった。

 ジョシュアのそれまでの戦績は22戦22勝(21KO)。198cmの長身と筋骨隆々の肉体はヘラクレスに例えられ、その強打とロンドン五輪を制した本物のスキルでレジェンドへの道を歩き始めたところだった。

 一方のルイスは、まるでシェイプされていない肥満体型。腹まわりには脂肪が浮き輪のように張り付き、普通のおじさんのような容貌だった。賭け率はジョシュア1倍に対してルイスが16倍。当然のようにかけ離れていた。

 だが、ルイスは勇敢だった。先にクリーンヒットを浴びてダウンを奪われると、逆に覚醒したかのようにジョシュアに迫る。3ラウンドに2度、7ラウンドにさらに2度のダウンを追加すると、レフェリーはためらわずに試合をストップ。空前の番狂わせが成立した瞬間だった。

 結局、半年後のリマッチでタイトルは再びジョシュアに移動することになるが、「代役に気を付けろ」という言葉を思い起こさせるには十分な試合だった。

若者は「代役」として輝く

 現在「RING MAGAZINE」のP4Pランキングで6位の評価を受けている若者がいる。ジェシー・バム・ロドリゲス。戦績は21戦21勝(14KO)。まだ24歳だ。

 22年2月5日、バムは世界タイトルマッチの前座で、WBC全米ライトフライ級タイトルマッチに出場する予定だった。ライトフライ級のリミットは48.9kgである。

 だが、メインイベントとしてセットされていたWBC世界スーパーフライ級タイトルマッチに出場予定だったシーサケット・ソー・ルンビサイがコロナ感染のため欠場することになり、急遽、カルロス・クアドラスとそのベルトを争うことになった。