始まってみないと、どうなるかわからない。そんなモグライダーの漫才がド真ん中を射抜いたのが、21年の『M-1』におけるトップバッターだった。

 例によって6組目のオズワルドが暫定1位に躍り出るころには大会から姿を消したが、モグライダーはこの4分間でテレビスターの座をつかんでいる。

 大会後、2番手に登場して最下位に沈んだランジャタイの国崎和也が明かしたところによると、芝はトップバッターに選ばれた時点で、優勝への意識を捨ててネタのテンポを落とし、一般視聴者にわかりやすい漫才を提供するという方向に切り替えたのだという。

 この年の優勝はモグライダーとともに地下ライブで辛酸を舐めてきた錦鯉、「わかりやすさ」の権化のような漫才だった。

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 トップバッターによって、『M-1』の風景は万華鏡のようにさまざまに形を変える。

 今年は誰がトップを引くのだろうか。再び令和ロマンの可能性もあるし、トム・ブラウンが混沌に陥れるかもしれない。

 その運命は「絵神籤」だけが知っているのだ。

(文=新越谷ノリヲ)