その未開の舞台を、文字通り切り拓いたのがメイプル超合金というコンビの華やかな存在感だった。赤と紫の異物感満載の漫才が、会場を一気にお祭り気分に巻き込んでいった。
その後、スーパーマラドーナ、和牛、ジャルジャルという審査員たちに馴染み深いコンビが次々に登場してメイプル超合金を暫定席から追い落としていったが、そのインパクトがお笑い界に与えた影響は、翌年の「ブレイクタレントランキング」(ニホンモニター調べ)で『M-1』同年王者のトレンディエンジェルを差し置いて1位を獲得していることからも明らかだった。
2019年 ニューヨーク
前年、霜降り明星という超新星を世に送り出し、そのお笑い界における重要度がますます高まっていた『M-1』のトップバッターは、長く「ネクストブレイク枠」の筆頭とされてきたニューヨーク。ようやくたどり着いた『M-1』初出場の舞台で選んだのは、歌ネタだった。
審査員席の採点には80点台がずらりと並び、「82点」を付けた松本人志は「笑いながらツッコむのが好きではない」と一刀両断。その後に控える漫才師たちを震え上がらせた。
だが、これに屋敷裕政が「最悪や!」とリアクションしたことで、空気が一変する。この年の『M-1』が、厳粛なコンテストから、平場も含めてみんなで楽しむバラエティ番組に変貌した瞬間だった。
続く2番手のかまいたちがラストイヤーにして待ちに待った傑作漫才「UFJ」を披露し、一気に会場のテンションはマックスに。そして日本は、ミルクボーイを知ることになる。
後年、史上最高の『M-1』という呼び声も高い19年大会を盛り上げたのは、間違いなく屋敷の「最悪や!」だったはずだ。
今年の準々決勝、この年のニューヨークの一連をまるごとネタにしたラパルフェが準々決勝に大きな爪痕を残した。
2021年 モグライダー
漫才師に「正統派」と「カオス派」があるとすれば、間違いなくモグライダーは「カオス」の側だろう。ツッコミの芝大輔はボケのともしげにネタの練習をさせず、本番でともしげが戸惑い、間違える様をツッコんでいくという唯一無二のスタイルは、長く東京のライブシーンを牽引してきた。