このドラマには、野球好きな人物が数多く登場してきました。ホークスのナイターを毎晩熱心に見ている永吉おじいちゃん(松平健)を筆頭に、神戸に移ってきてからも狂信的なオリックスファンのご近所さんが登場したし、社食のコック長・立川さん(三宅弘城)もタイガースに対する並々ならぬ情熱を語っていたことがありました。
つまりは、それだけみんなに愛される「野球」というものが存在する世界線として描かれているわけです。
にもかかわらず、星河電器で行われている「野球」は、私たちが知っている野球とはかけ離れています。エースは肩を痛めても誰にも言わないし、医者にも行かない。腕が上がらなくなっても、チームメートも記者も誰も気付かない。監督は気付いていたのに肩が爆発するまで放置している。
彼らにとっては、野球が仕事です。ここでも、関係者面々の「働く」ということに対する意識の低さが浮き彫りになっています。澤田(関口メンディー)が抜けた星河の野球部には、自分の役割を理解して実行している人間がひとりもいない。誰もまともに働いていない。
自己管理を疎かにした自分自身と無能な指導者のせいで本格的に肩が壊れてしまった翔也は、いよいよ病院に行ったそうです。
「かなり厳しいって」「もう野球できねえかもしんねえ」
つまり、翔也の肩を診たお医者さんは、翔也に「これはかなり厳しいねえ」「もう野球ができないかもしれないねえ」と言ったということです。当然、翔也はお医者さんにノンプロの野球選手であることは伝えているはずです。
そんな患者に対して、漫然とケガの状態だけを伝えて不安にさせている。症状の詳細や今後の治療方針について、何も説明していない。インフォームドコンセントが、まるでできてないということです。
「もう野球ができないかもしれないねえ」じゃないんだよ。レントゲン写真を見ながら選手の意向をヒアリングして、保存療法と手術のメリット・デメリットを相手が理解できるように伝えて、納得できなければセカンドオピニオンを勧める。そういうのが、お医者さんの仕事でしょう。ここでも「まともに働いていない大人」が登場しています。