今は亡き(たぶん生きてはいるんだろうね知らんけど)靴職人のナベさん(緒形直人)に、結パパ(北村有起哉)はこう言いました。
「同じ職人として」
その言葉には、パパ自身が床屋職人であるという自負が多分に含まれていたはずです。
その職人たるパパちゃんが、営業前に顔剃り用の石鹸すら用意していない。トイレ掃除もタオルチェックもしていない。主人公が栄養士になるという「お仕事」を描こうとするドラマで、「職人」という言葉の価値を、こうも簡単に毀損してしまう。
NHK連続テレビ小説『おむすび』の第12週は「働くって何なん?」がテーマでした。働くとは、人の役に立つことをしてお金をもらうことです。そのサービスを滞りなく提供できるように、準備をすることです。どんな商売であれ、お客さんを迎える場所を隅々まで掃除することです。「お客さんの笑顔」がどうとか「利益率」がどうとか、そんな理屈や理想を語るのは、その先の話です。
社会人1年目の結(橋本環奈)が仕事に対して未熟であることはまだいい。この週「働くって何なん?」というテーマで描かれたのは、結以外の大人たちの「働く」ということに対する絶望的な意識の低さでした。結の手本となるような、まともな社会人が誰もいないのよ。
第50回、振り返りましょう。パパちゃん、そんな体たらくじゃ師匠が泣いてるぜ。
パソコン持ってきたぞー!
ママ(麻生久美子)が家出して数日、会社が休みの結さんが床屋を手伝っていると、次々に「ホームページを見た」というお客さんが押し寄せてきます。その1人はご丁寧にパソコンを持ってきました。そのパソコンを開いてみると、ママが作ったと思しき立派なホームページが公開されていました。
ホームページを公開したら、客が押し寄せてくる。まるで、2000年代の前半に日本中の駅前で無料モデムを配布していたYahoo!BBの詐欺的広告のような展開ですが、そういうミラクルファンタジーが発生する世界線を描いているのであれば、ホームページの開設に反対していたパパがなおさらバカに見えてきますね。