伴野「日本よりも中国のほうが家族や親戚との結びつきが強く、日本人が思っている以上の圧力を若者たちは感じています。バブル景気が終わった中国では、キャリアアップを図ってもなかなかうまくいかず、そのために自己否定感が強くなっているようです。自分は何者なのか、本当にやりたいことは何なのかといった悩みを抱える人から、性的アイデンティティーを模索する人たちまで、自由に受け入れているのがクラブカルチャーなんです」

美しく切り取られた嘔吐シーン

 本作を撮ったのは、米国人のベン・ムリンコソン監督。5年間にわたって「ファンキータウン」に集う人たちを密着取材。撮影時間は600時間におよび、編集に2年を費やしたそうだ。

伴野「ムリンコソン監督は『ファンキータウン』で知り合った友達、そして彼らのコミュニティを美しく撮り、映像として残したいと考えたそうです。僕らが見ると現実逃避しているように感じるのですが、ムリンコソン監督は彼らのカルチャーを本当に美しいものと感じながら撮影していたようです。彼らが嫌がるシーンは撮らず、同意の上でカメラを回し続けたと語っています。DJが昼間はバイトに追われる様子など、シビアな現実も交えることで夜のクラブシーンをより幻想的に感じさせる構成です。彼らが嘔吐するシーンがたびたび映し出されますが、彼らは単に酒に酔っているのではなく、吐き出してしまいたいものがあるのでしょうね。実に美しい嘔吐シーンだと思います」

 日本の地上波テレビで放映されるドキュメンタリー番組の多くは、視聴者が理解しやすいように説明テロップやナレーションが付いているが、「アジアンドキュメンタリーズ」の配信作品にはそれがない。そのことは、本作を観る上でも重要な役割を果たしている。

伴野「テロップやナレーションがほとんど付いていないからこそ、集中して観ることができ、あたかも自分がその世界の一員になったような感覚が味わえます。自分の知らない世界を擬似体験できるのも、ドキュメンタリー映画の醍醐味です。仮に自分とかけ離れた世界のできごとだったとしても、人の悩みには共通性があるものなので、なんらかの“気づき”を得ることもできる。本作は、自分の将来に悩む日本の若者たちに響く可能性があるので、ぜひ観てもらいたいですね」